私の真珠
君は真夜中に眺める真珠の感触に似ている。それはベットの中で、ポケットの中で、私の光源になり、どこにあっても美しくひかる。
私は真珠をこの世で1番美しい石だと思う。
母親のクローゼットの2段目には真珠のイヤリングが仕舞い込まれていた。母親が仕事に出ている間、テレビにも飽きた私はよくクローゼットのそれを引っ張り出して耳につけて、母親の化粧品で化粧をして、見つかってよく怒られた。私はその真珠の感触をよく覚えている。母がそれを身につけてたところを見た記憶はない。アクセサリーにはほとんど興味のない人だったから。多分もらいものか何かだったんだろう。その真珠が本物だったのかイミテーションだったのかはもう知ることができない。
「宝石」の価値は私にはよく分からない。私の爪を埋め尽くすキラキラのストーンと、昔先輩がボーナスで買っていた一粒ダイヤのネックレスと、芸能人の薬指に輝く大きな石が、私には同じに思える。産地がどうであれ、原料がなんであれ、キラキラしていればそれでいい。私はカラスみたいだから、アイシャドウもハイライトも爪も持ち物も、キラキラしていればそれでいい。だから真珠を身につけたことはない。真珠は難しい。首に巻いても耳につけてもしっくりこない。真珠はただしっとりと艶めき、沈黙のままひかる。私にはまだ似合わないなと思う。
貝の胎の異物が時を経て(へて)貝殻と同じ成分を身にまとい真珠になる。厳密にそれは石ではなくて成分は貝に等しいらしい。私が碧海に惹かれた理由の一つに、彼が元解体作業員だったということがある。私はガテン系の男が大好きだ。汗にまみれて働くことの美しさ。額に汗することの褪せない青春(アオハル)。頭に巻いたタオルからこぼれる日に焼けた額が太陽に晒されて、この世で最も美しくひかり輝く。土ぼこりと汗の匂い。炎天下の日差しの下で少しの日陰にみんなで小さくなりながらとる昼休憩の光景。
異色だったんじゃないか、と思う。その経歴。アイドルにはあまり明るくないから、調べたら他にもいるのかもしれないけど、やっぱりあんまりいないんじゃないかな。碧海みたいな人って。
いろんな気持ちで、いろんな経験をしてそれが碧海を真珠たらしめたんだろう。まるく艶めく輝きは色んなことを私に考えさせる。私が見つけられる場所にいてくれて良かった。私は目が悪いから、他の石に紛れてしまったら気がつかなかったかもしれない。手を伸ばさなかったもしれない。
アイドルになってくれて本当にありがとう。
光を受けずとも美しくひかる真珠だもの。きっとどんな場所でも君は輝くだろう。
だからもしこの先君を見失うことがあったとしても、どうせ私はまた君を見つけ出す。Wi-Fiルーターの光しかない夜に柔らかく輝くそのひかりを。