連続小説「旅人」(2)
*この物語はフィクションです。
夏は北へ行き
冬は南へ行く
時に東へ行き
時に西へ行く
平日の海水浴場は淋しい。辿りついた北関東の海水浴場は夏の盛りだというのに人出が少なかった。海水浴場に隣接した公共の無料駐車場には駐車するクルマは少なく、どこに停めようかと迷うほどであった。公衆トイレから遠くはなくそれでいて近くもない場所を選んだ。
さっそく水着に着替えてビーチサンダルを履き海に向かった。何組かの親子連れや若者のグループが夏の海を楽しんでいた。海に来たかったからではないので、とりあえず砂浜にすわって海を眺めることにした。すでに昼を過ぎていたので砂は暖かく風はぬるかった。
放心状態のままどれだけの時間が過ぎたであろうか。海水浴を楽しむ親子や若者がしだいに少なくなっていることに気がついた。陽は傾きかけている。少しだけ海に入ってみようと思った。砂の色が濃い灰色で、海水はその砂を含んでいるためか、海水の透明度はあまりよくない。なれない海でもあったから水面が腰より少し上まで来る辺りを少し泳いで早々に浜に上がった。
屋外用簡易シャワーと屋外用縦長テントを使ってみた。初めは常温のシャワーを使ってみたが、ポリ容器に入れた水は夏の高い気温で温まっていたものの、少し冷たいと感じたので、簡易シャワーの電気式温水装置を稼働させてみた。これがなかなか快適でちょっと嬉しくなった。
個別設置型縦長テントは、屋外簡易シャワーブースとしても、屋外簡易トイレ用目隠しとしても使える優れものであった。そうはいっても屋外で完全に全裸になることには抵抗を感じたので、下着のパンツをつけたままシャワーを浴びて洗って流し、バスタオルを巻いてから下着を脱ぎ、バスタオルを巻いたまま新しい下着をつけ、そして寝巻代わりのスポーツウエアを着た。脱いだ下着はその場で洗って絞り干した。
夕食の用意は何もしていなかった。昼食は途中立ち寄ったコンビニで総菜パンを食べただけだから少し空腹を感じていた。一人暮らしで会社帰りに外食をして帰宅することが多かったので簡易的な料理しかしたことがない。そもそも車中泊の旅を楽しみたくて出かけてきたわけではなく、旅をして自分を見つめ直すことが目的だったから料理することには興味がない。
持ち帰り弁当などを買うとごみの処分が煩わしいので、弁当を買ったとしてもイートインコーナーなどで食べることが多かった。できたら今夜もそうしようと思った。
縦型テントと簡易シャワーを畳み、水を入れたポリ容器の口を閉める。そして車内にしまう。サンダルを脱いで靴に履き替える。自然乾燥させた髪をブラシで簡易的に整える。寝巻代わりのスポーツウエアはそのまま着続ける。
コンビニかスーパーを探す小旅行が始まった。夕食を済ませたら、またこの場所に戻って車中泊に挑戦しようと思った。最新のオフィスビルのような快適さはないが水洗式の公衆トイレがあって便利だと思ったからだ。もちろん災害時用簡易トイレを搭載してはいたが、使わなくて済むなら使いたくはなかった。
走り出してみると、コンビニやスーパーを探すことに意外と苦労した。しかたなくナビゲーションで探すと、5分以上離れた場所にコンビニが1つ、10分近く離れた場所にスーパーが1つあることがわかった。とりあえずコンビニを目指すことにした。
重要なことはイートイン・コーナーがあるかないかだった。なければ車内で食べるしかなかったが、車内で食べることの味気なさは何度も味わって知っているので、できれば屋内のテーブルと椅子で食べたいのだった。
不安に思いつつ最初にたどりつたコンビニにはイートイン・コーナーがなかった。何も買わずに出るのも気が引けたので何か買おうと思ったが、何を買ったらいいのか思いつかない。しかたなくスモールサイズのコーヒーを買い屋外で飲み干して空きカップを店内のごみ箱に捨ててコンビニを出た。
次にたどりつたスーパーにもイートイン・コーナーはなかった。トイレすらなかった。先に立ちよったコンビニで夕食を買えばよかったかなと少し後悔した。ただ弁当の種類は豊富で品質も少しはよさそうで値段も手ごろだったので、少し迷ったがアナゴ丼を購入し車内で食べた。容器をどう処分しようかとごみ箱を探したら、リサイクルごみ箱と一緒に燃えるごみとプラスティックごみのごみ箱があったので、そこに捨てて海水浴場の駐車場に戻ることにした。
続く、