【つぶやき#3】 ニックネーム
高校時代のあだ名は「キモリ」だった。
キモい+小森で、略して「キモリ」だった。
いじめられていたのではないか、と想像するかもしれないが、決してそうではない(はず)。仲がよければよいほどそう呼ばれていたし、何よりその事実を、私はこれっぽっちも気にしていなかった。JK時代になぜ、そう呼ばれていたのか、思い当たる節がある。バカ正直だったからだ。
高校時代は吹奏楽部の練習に明け暮れていて、コンクールの前には手紙とプレゼントを渡し、盛大に仲間を応援する風習があった。手紙の締めくくりは
「頑張ってね。大好きだよ!」。
それは心から相手のことが大好きだったから書いていたし、周りの友達も先輩も後輩も、手紙の最後に「大好き」と書いてあることがほとんど。好意を文字で伝える行為については、キモいと言われることはなさそうだ。
しかし私は、手紙での表現では終わらなかった。友達がものすごい熱意で応援してくれた時、
相談した時に的確なアドバイスをくれた時、
自分には真似できない素敵な演奏をした時。心が揺さぶられた時に、
「まるまるちゃんのこういうところ、
すごくよかった!」
と言葉に出して伝えていた。伝えたかった。
そういった「褒める言葉」をたくさん使っているうちに、どういうわけか「小森まじキモいw」と言われるようになったのである。「キモい」とは使いやすい言葉だと思った。
気持ち悪いからキモいし、嫌だからキモいし、恥ずかしいからキモいと言って、感情から逃げる。高校生ながらに、嫌がられている意味で「キモい」と言われているわけではないと気づいていたから、何を言われてもヘッチャラだったのかもしれない。仲がよい友達こそ「キモリ」と呼んでいたのは、私がその子を褒める回数が多かったからなのだ。
そんなことを思いついていたある日、大学の友達の個展をみに行った。絵画の個展だ。会場には油絵とアクリル絵の具で描かれた絵がある。なんで2つの材料で描きわけているんだろう?と思い、作者に聞いてみると、すごく腑に落ちる回答が返ってきて、感動した。どうやら大学の先輩が来場したようで、その先輩に言われた言葉を本人が納得し、私に説明してくれたらしい。う〜ん、さすが先輩だ。
後日、たまたま先輩と会う機会があったので、個展で私が感動した流れを説明した。先輩は本当に、目の付け所が私と違くて、作品をたくさんみていないとその思考には達せません、と。すると
「こもりってさあ、学生時代からウチのことめっちゃ褒めてくれるよねwww」
と一言。
「キモリ」と呼ばれていた高校時代と、同じ感覚に陥った。