大事な日は雨
私の夫は雨を呼ぶ男である。
特に大切な日にはほぼ必ず雨を呼び、その日全ての予定を台無しにしては人々を失意のどん底へ突き落とす。
仕事面の具体例をここで挙げれば悪天候の危険因子として夫(お笑い芸人)の起用を取り止めようとする動きがあるかもしれないので言わないでおくし、仕事ください。
強いて言えば、夫の年に一度の単独ライブはことごとく雨予報で、結婚式は二人の幸せを呪うような暗黒の空の中雨風に晒された。
沖縄の新婚旅行にいたっては台風で飛行機が欠便になり、沖縄に行くことさえ叶わずヤケクソにならざるを得ない。
1ヶ月後に予定をずらして当日を迎えるまで、延期の責任を感じた夫はてるてる坊主を作り、晴れますようにと神社4社へ参拝してまわった。
その成果あってか、雨は降らず、新婚旅行の便は空へと飛び立つことができた。
しかしついにきた念願の沖縄は見事な悪天候で景色は楽しめたものではなかった。
滞在していた4日間は空一面常に灰色の雲で、時折雨も降ってくるし、幻の島へ行くツアーは中止、最終日は横殴りの雨を部屋の窓から眺めて終わった。
ただ唯一、青空が顔を覗かせる奇跡の瞬間もあった。
それがバナナボートを乗っている時だった。
新婚旅行+マリンスポーツという要素だけで浮かれてバナナボートに夫婦で乗ってみたものの、私に関しては絶叫が苦手な上に泳げない。
ほぼ死と隣り合わせのアクティビティに自らノコノコと参加していた。
目の前の持ち手を離せばライフジャケットがあっても急に放り出されたら足のつかない海でおそらくパニックになる。
走ってる時は意外と全身に水がぶっかかるので視界が奪われ、今私は一体どこで何をしているのか、とにかく死にたくないという思いに駆られていた。
この時、5分ほど晴れ間が見えて日が差し込んだらしいが、生きることに集中しているので拝めず、沖縄の青空は私にとって幻の景色となる。
おかげで沖縄の綺麗な写真や映像を見ると嫉妬するようになってしまい、また厄介な劣等感を抱く結果となった。
雨が無ければこんなことにはならなかったのに…。
来年、北海道へ旅行する予定だ。
雪景色が楽しみなので青空への期待はしていない。
ただ飛行機が飛んでくれることを祈っている。