「セレブ気分に浸れる憧れの空間」
つまらんね。私は。世の中斜めに見すぎてさもしいし暗い。
3年くらい前に陰鬱さが画面越しに伝わるのを理由にテレビの仕事クビになった時点で私のタレントとしての選手生命はもう終わっているのである。
なぜ私は不快の化身として善良な市民の皆さんに猛威を振るっているのか。
ある日ふと思った。三つ子の魂百までというではないか。
そうだ、人生狂うほどのこの性格の歪みっぷりの全ての理由はここだ、家庭環境にあるのだ。
6月に私の誕生日を迎えた時のこと。
そのお祝いとして母と妹がホテルでのランチをご馳走してくれることになった。
以前、親には私の結婚式の引き出物としてカタログギフトを渡していた。それを使って母と妹は無料で、そして私の分だけ当日支払えばいいということなんだが、それ2人分私が奢ってない?
ホテルに到着。
ワタクシ、30歳にして初めてのホテルランチである。大人の階段登る、私はまだシンデレラ。
ホテルのレストランはとにかく興奮した。天井高いし、ガラス張りから見える中庭のラグジュアリー感バチェラーだし。
コース料理が記載されたメニュー表を見てみると、ホテルからの挨拶文が目に入った。最後の方に
『セレブ気分に浸れる憧れの空間で映画のワンシーンのような非日常の時間をお過ごし下さい』
というようなことが書かれてあり、私にっこり。
そのようにパスしてくれるのなら存分に浸らせていただきましょう。私の抜きん出た妄想力を持ってすればセレブ気分も映画の大女優ぶるのも朝飯前なのである。これから頂くの昼飯なんだけどね。プププー!
しかしそこで母と妹の表情が曇ったのに気がついた。
私は背筋を伸ばして「これから誰がコンフィデンスマンJPのダー子役やるぅ〜?」とかヘラヘラきこうと思ってたのにそんな空気じゃなくなった。仕方がなくどうしたのと聞けば
「セレブ気分に浸れる、とか、それ、ホテル側が言うと興が覚めるんだけど」
そこには私より物事を斜めに見てる人がいた。
もちろんセレブ気分に浸れる素晴らしい空間ではあったが、それを口にしていいのは客側であってホテル側は謙虚であれよという二人の言い分だった。
私としては、言われてみればうーんわからなくもないけど彼女らの器の小ささは一生セレブになれないなという感想。
こんなことで私は目くじらを立てない。彼女達に比べたら私の心の綺麗さはまだシンデレラだ。
まだ止まらない母と妹の不満。
「憧れの?空間で…?お前らは普段こんなところ来れないよねってこと?私たちがまるで庶民みたいじゃないか!」
庶民なんだよなあ。
金銭的には庶民だけど人間性があまりにも貧しすぎる。私はこんな他愛ない図星つかれてぶうたれていてる家庭で育ってたということになるのだ。シンデレラかわいそう〜!
コース料理に舌鼓打ってデザートに差し掛かったところでも母と妹はまだブチクサと言っていたので呆れたものだ。
やれやれと2人の偏屈さを咎めながら、シンデレラ美鈴は注ぎ終わったコーヒーフレッシュのカップにスプーンで紅茶を入れてまたそれをカップに注いでいた。
すると母と妹から新種の虫を見るような目を向けられた。あまりにも失礼な話である。
これは注いだだけではどうしても容器に張り付いて残ってしまうフレッシュを使い切るために、紅茶で洗い流すように、フレッシュのカップに紅茶を入れているのだ。
食べ物を大事にする私の説明を聞いた途端、母と妹は鬼を首を取ったように「あんたが一番貧しいじゃん!」とはしゃいでいた。
完全にシンデレラにいじわるする義理の母と姉妹である。ディズニー作品のヴィランの中でも名前が圧倒的に知られていないところからしても器とか人間性の小ささが強調されてる感じがする。
はーあ。そんな家庭環境で育ったものだから今の不快の化身になってしまったんだな。
かわいそうなシンデレラ。いつも笑わせてもらってます。十分幸せです、家族ありがとう。