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「日出処の天子」の大和路を往く2023 ~ 華のおんなソロ旅
奈良に行く機会があって、例によっていろいろ観てこようと思ったのだが、神社仏閣にほとんど関心がないので今一つ考えつかない。ガイド本(最近のお気に入りは、TAC出版の「おとな旅プレミアム」シリーズ)をパラパラとめくっていたら、な、なに、この巨大な岩の洞窟のようなものは !? それが飛鳥地域の「石舞台古墳」との出会いであった。説明を読むと、あの古代の大豪族、蘇我馬子(そがのうまこ)の墓だと言われているとのこと。蘇我馬子と言えば・・忘れちゃいけない聖徳太子 ! 古くは1万円札のモデルであったが最近は実在しなかったという説まであり、教科書の表記も「厩戸(うまやどの)皇子」と変わっているそうな。しかしながら私たちの世代の女子にとっては、聖徳太子と言えばなんといっても山岸凉子さんの漫画の傑作、「日出処の天子」なのである。ムフフフフ、旅のテーマが見つかったぞよ ! 聖地巡礼をしようと調べて「日出処の天子 古代飛鳥への旅」(太陽の地図帖・平凡社)を見つけ、さっそくゲットしたら、気分はダダ上がり(なんてことばあるのからん・笑)である。
1日目、JR奈良駅には到着したのは14時ころ。本日行くのはあの法隆寺である。まずJRに乗ってJR法隆寺駅に向かう。公共交通を利用して要領よく廻るのには、事前のシミュレーションが大切である。ゆとりを持った時刻で計画するのだが、思いがけず早く観終わったり、逆に時間がかかったり(個人旅行なのだからそれはそれでよいのだ)する場合に備えて、一本ずつ早い便、遅い便も行程表に書いておく。今回はうまい具合に予定より一本早い便に乗れて嬉しい。法隆寺駅から法隆寺までは、最悪の場合はタクシーかなと思っていたが、これまたちょうど周遊バスが駅前に到着して、乗ることができた。こういう日は、万事スムーズにいくことが多いがどうだろうか。
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広大な法隆寺は、最初から廻り方を考えておかないと大事な見どころを見過ごしてしまうようだ。私も予めネットで調べて、順番を決めていた。ガイド本の該当のページをカラーコピーして、他からの情報も書き込んでおく。「ここに太子の像あり」とかね。撮影用のスマホを持ってガイド本までは抱えられないが、ペーパー一枚なら手に挟んでいてもかさばらないので、なかなかうまい方法だと思っている。
さて、南大門から入り、金剛力士像がにらみを利かせている中門から西院伽藍に入場する。回廊の柱は有名なエンタシス様式で中央にふくらみがある。事前に調べたお薦めにしたがって、まずは五重塔。五重塔は要するにお釈迦様の遺骨を奉じているのね。そんなことさえ認識していなかったが、今回は少し予習をした(笑)。最下層にはユニークな塑像、初層には「邪鬼」がいる、などという知識もよくガイド本などを見ていないと見過ごしてしまう。心配していた修学旅行生とのバッティングだが、一校だけ。中高生が歴史的建造物に関心が深いとはとても思えないのだが、なぜか行先は昔と変わらず京都、奈良なんですよね。私の時なんか友達と夜通し話をしていて寝不足で、どこがどこだか全く覚えていないけど(笑)。観光地の方々はスポットスポットで生徒たちを待ち受けては解説をしているので、ちゃっかり横にいて漏れ聞いては勉強になったことはありがたかった。
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続いての拝観は現存する世界最古の木造建築、金堂である。金堂内は撮影禁止だが、釈迦三尊像と、向かって左側の壁画の再現画は美しかった。「日出処の天子」の連載第一回の扉絵は、最初で最後の太子の成人した姿だと思われるが、それを見守っている菩薩群像は、明らかにこの再現画をモデルとしている。大講堂を通り、聖徳太子像を安置する聖霊院(しょうりょういん)で、普段は公開しない像を写真で見せていただき、いよいよ大宝蔵院に向かう。これがかの有名な「玉虫厨子(たまむしのずし)」か。なんだかよくわからないまま、歴史の教科書で暗記させられたっけ。そして平成10年にようやくここに落ち着いたという百済観音像である。すんなりと立っている優美なお姿には現代人も魅了される。東大門を出て東に歩き、東院伽藍へ。ここでの見どころは「夢殿」である。聖徳太子供養のために建てられたというこの気品ある八角堂は、「日出処の天子」では、厩戸が雨ごいをするために鞍作鳥(くらつくりのとり)に作らせてこもったものとして登場する。太子の等身大といわれる救世観音菩薩が安置されている。
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聖徳太子が建立したことで有名な中宮寺は夢殿を出てすぐ入口がある。建物としては新しい。本堂内で真ん中に安置される菩薩半跏思惟像(ぼさつはんかしゆいぞう)は、太子の母、穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)だというが、そのアルカイックスマイルは世界三大微笑像として著名である。昔は美しく彩色されていたのが、年月を経てすすの影響もあり黒光りするようになったというが、これはこれで美しさが引き立っており、しばし立ち止まって眺めていた。左端には来目王子、右端には2歳児の聖徳太子像が立っており、「日出処の天子」での母子の確執を思うと、つい「良かったね、厩戸」と思ってしまった。すっかりフィクションと史実がクロスしている(笑)。お堂の中には「天寿国曼荼羅繍帳(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)」という、太子の妻、橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)と女官が、亡くなった太子を偲んで作ったという曼荼羅のレプリカも飾られている。これにはいわれがあって、哲学者の梅原 猛氏が山岸凉子さんとの対談で、この傑作は橘大郎女の太子の正妻としてのプライドと意地の産物ではないかと言っていて、とても面白かったのでぜひ見てみたかったが念願かなった。
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中宮寺から、東院伽藍を出て法隆寺前のバス停までそぞろ歩いてみた。この由緒ある地区でも人々の生活があるのがわかる。一方でまだ発掘途中の現場もあって歴史の奥深さを痛感させられた。
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さて、同じ行程でJR奈良駅まで戻ってきて、いよいよ今日の宿、奈良ホテルに向かう。この奈良ホテルは50年前の家族旅行で宿泊した思い出の宿である。当時、私の家族旅行は母方の祖母が一緒だった。私たち子どもはほとんど記憶になかったが、祖母は晩年まで何度となくその時のことを懐かしがり「真っ赤な絨毯が敷きつめてあってね、入口の水槽に金魚が泳いでいて、素晴らしかったねえ」」と語っていた。このたび奈良に行くことになって、この有名なクラシックホテルを再訪しようかと思ったのだ。みざくらの母は几帳面な人で、家族で旅行をしたりすると必ず写真を撮っては、一人分ずつのアルバムを作っていた。みざくらの分の「奈良旅行」の巻を見ると、どうもこのホテル前で撮ったと思われるものがある。今はどうなっているのか・・。多分ここだと思うが、50年経ってもほとんど変わっていないことに感動。被写体はずいぶん年を取ってしまったけれど(笑)。
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ホテル内も落ち着いた風情で、また接客が温かみがあってとても良かった。記念だからとメインダイニングの「三笠」でフレンチのフルコースを堪能したが、グラスワインとのマッチングもとても合っていた。最近、フルコースとグラスワインセットのマリアージュが流行りのようで、せっかくだからと注文するのだが、実際にはあまり合っていない例も多々ある。今回はとてもよかったので、さらに一杯お代わりを。子どもの頃にできなかったこと、それはバーラウンジへのはしごである。一人で入ったが、窓際の外の眺めのよい席にしてもらえた。おもてなしの心が十分で、嬉しかった。
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明日は、定期観光バスで飛鳥路めぐりである。よく眠れますように。