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「あたしの事、恨んでるだろ?」

六本木のオープンカフェは、店内も窓ガラスの外も閑散としていた。

行き交う人は、どこか無機質だった。

いや、そんなことは、と仮野は言葉を濁した。

それに、よくよく考えたら、あんなのは愛情じゃない、と小声で付け足した。

入真知は、カップを持ちながら微笑した。

都会の人間は、宙にカップが浮いていても、プラズマの実験か何かだと思っているのだろう。事さらに騒ぎ立てる人間は居なかった。

隣の席に、背の高い外人が座った。パンパンになったリュックをドサッと降として、オープンスペースで、荷物の整理を始めた。

その様子を見ていた仮野と目が会い、写真を頼まれた。

円な瞳が屈託のない、仮野が見てもナイスルッキングだと思える男性だった。しかし、入間知は興味がなさそうだった。

照れながら対応する仮野をみて、入間知は苦笑した。

あの写真はやはり―――姫容李の母親だったんだろうか。

入真知と懇意になった姫容李の父親に寂しさを感じて―――という流れなのだろうか?

入真知なら、何か知っているかもしれないと思って、口を開きかけた。

「これからどうするん?」

口を開いたのは入真知の方だった。

五年間の仮面生活は跡形もなく崩壊した。

場所も、周囲の人間も、すべて―――

これからは、すべてを、自分のために生きられる。

「好きじゃなかったんだろ―――仕事」

後ろの席にサラリーマンが二人座った。

「何で嘘ついて生きてたん?」

入真知はまじまじとこちらを見た。

着座するなり、片方が、もう片方に手を合わせた。

「ま、あたしも何だけどさ―――」

入真知はニヤニヤしていた。

「御免―――今日の契約、俺が取ったことにしていい―――もう本当にさ、今度高級キャバクラ紹介するからさ―――頼むよ」

頼まれた後輩サラリーマンは苦笑いを浮かべている。

「あるよね―――好きでもないものを好きって言って、抜き差しならなくなるとき」

ぼんやりと行き交う人を見ている。

「あたしがしでかした姫容李への仕打ちがひどすぎるからって―――姫容李の転生分を生きることになったらしい」

大学教授だろうか?分厚い書物を抱えた、初老の男性が、杖を付きながらゆっくりと歩いている。

「生前の行いからも、かなりのハンデがあるらしから、生きてくの大変だろうって。」

コーヒーを飲み干して、ずっという音が聞こえた。

「でも、あたし、与えられたものからは逃げるつもりはないから―――」

自分がやってしまった事への悔恨、という部分も心のなかで気になっていたのかもしれない。

実際のところ、この二人の仲がいいのかどうかはわからない。お互いに死んでしまっているわけだから。

「向こうだって、学生の頃彼氏できなかったときに、散々見せつけてきたんよ―――だから、あたしもいちばん大切なもの奪ってやるってなって」

おかわりもらってこいという指図があった。

「ま、今更蒸し返しても仕方ないんだけどさ―――悔しいじゃん、みせつけられっぱなしなんて」


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