
賃金減額とパワハラに基づく損害賠償請求(平成31年4月15日福岡地裁)
概要
被告に勤務する原告が、被告会社に対し、
(1)平成29年5月支払分以降の月額賃金のうち、基本給1万円、職務手当5万円及び調整手当1万円をそれぞれ減額されたことについて、上記賃金減額は労働契約法に違反し、また被告の給与決定に関する裁量権を逸脱したものであるから無効であると主張して、月額賃金として基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万900円の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、平成29年5月支払分から労働契約終了時までの間の差額賃金の支払を求め、
(2)平成27年夏季賞与から平成29年年末賞与までの各賞与額を不当に減額されたことにより、本来支給されるべき賞与額との差額分の損害を受けたとして、または精神的苦痛を被ったとして不法行為に基づく損害賠償金の支払を求め、
(3)被告代表者及び被告従業員からのパワハラにより精神的苦痛を受けたとして、労働契約上の就業環境配慮義務違反による債務不履行責任若しくは民法709条、会社法350条及び民法715条による不法行為責任に基づく損害賠償金並びに遅延損害金の支払をそれぞれ求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
本件賃金減額は従業員の同意もないまま,就業規則等の明確な根拠もなく行われたものであるといえるから,本件賃金減額は無効であるといわざるを得ず,会社は従業員に対し,平成29年5月支払分以降,毎月10日限り,差額賃金の7万円の支払義務を負う。
従業員の主張する会社代表者のパワハラ行為のうち,従業員のミスを怒鳴って肘で従業員の胸を突いた行為,従業員の背中を叩いた等の行為は,いずれも従業員の身体に対する暴行であり,会社代表者がこれらの行為に及ぶ必要性があったとは認められないから,従業員に対する違法な攻撃として不法行為に該当し,次に,会社代表者の発言や言動のうち「私はあなたのことを全く信用していない」「給料に見合う仕事ができていないと判断したら給料を減額する」等の発言は,従業員の人格権を侵害する行為といえ,不法行為に当たるというべきであり,また会社の従業員が,原告従業員に対し「作業は1回しか教えない,社長に言われている」と発言したり,会社代表者から途中の休憩は取らせるなと言われている旨等告げた事実についても,会社代表者によるトイレ休憩をとらせないよう言った指示と相俟って従業員の人格権を侵害する行為といえ不法行為に当たるというべきであるから,会社は,会社法350条及び民法715条に基づき,従業員が受けた精神的苦痛について賠償責任を負い,従業員の身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額は50万円が相当である。