懲戒解雇は認められ、未払い賃金請求が一部肯定された事例(平成28年12月15日大阪地裁)
概要
被告会社の従業員であり、女性従業員に対するセクハラ行為を理由として、懲戒解雇処分を受けた原告が、セクハラ行為はしておらず、処分は無効であると主張して、被告に対し、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、同処分前の未払賃金を含む賃金の支払いを求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
元従業員は,女性従業員に対し,平成25年11月,マフラーで首を絞めて駐車場の奥まで引きずりキスをするというセクハラ行為に及んだもので,その態様は粗暴かつ悪質で,刑事犯にも該当しうる行為である上,元従業員は平成23年12月及び平成24年7月にも深夜の公園や路上で女性従業員に無理矢理キスをするというセクハラ行為に及び,さらに,平成24年8月にも午後11時頃に女性従業員を公園に連れて行こうとしたのであり,このような元従業員の一連の行為が,就業規則の懲戒解雇事由に該当することは明らかであるところ,上記態様の悪質性やセクハラ行為の回数のほか,元従業員が,会社による調査を受けても,セクハラ行為そのものをすべて否認し,会社や女性従業員に対する謝罪や反省の態度を一切示していなかったことにも鑑みれば,会社が元従業員を懲戒解雇処分としたことについては相当性があると認められ,本件懲戒解雇処分は有効であるから,元従業員の会社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び本件懲戒解雇処分後の賃金請求についてはいずれも理由がない。
自宅待機命令は,使用者が,労働者に対し,一方的に就業を禁止するものであるから,使用者は,民法536条2項により,その間の賃金支払義務を負う場合が多いものと解されるが,民法536条2項は任意規定であり,就業規則でこれと異なる規定を置くことを排除するものではなく,就業規則49条2項は,従業員の行為が懲戒事由に該当するおそれがある場合に,その調査や懲戒処分の決定に必要な期間に限り自宅待機命令をし,その間の賃金を平均賃金の6割とするものであって,就労を許容しないことに実質的な理由がある場合に限定されており,その期間も限定されていること,その金額も労働基準法の休業手当と同額であることに鑑みれば,同規定には合理性があると認められる。
賃金からの相殺額が多額にわたらないなど,労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないときには,いわゆる調整的相殺として,労働基準法24条1項の全額払の原則に反しないものと解されるところ,会社は,平成26年11月の自宅待機期間中の賃金を,本来であれば,平均賃金の6割とすべきであるのに,その点を考慮せずに賃金を満額支払った結果,相当額の過払金が発生したことが認められ,会社が過払金を控除した結果,元従業員に対して,同年12月分の給与として,わずか3万1325円しか支払われなかったというのであって,元従業員の経済生活の安定を脅かすおそれがないとはいえないから,いわゆる調整的相殺として許容される場合には当たらないと解するのが相当であり,同年12月分の給与は,同月1日から,懲戒解雇の効力が発生した同月24日までの間について,平均賃金の6割に相当する金額と,年末調整等による戻入金に相当する9万9747円を合計した金額から,同年11月1日の欠勤控除1日分を減じた金額となる。
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