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雇い止めが無効とされ、損害賠償請求等が一部認められた事例(平成28年12月21日東京地裁)

概要

被告会社の従業員が、被告・上司Aからセクハラを受けたとして、被告Aに対して不法行為に基づき、被告会社に対して債務不履行又は使用者責任に基づく損害賠償金、時間外手当及び法外残業・深夜労働に係る割増賃金の支払を求め、原告が、被告会社から雇用契約を更新しない旨通告されたため、当該雇止めが無効であるとして、被告会社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、民法536条2項に基づき上記雇止め後の賃金の支払を求め、上司であった被告Bや被告会社から組織的なパワハラに該当する行為をたびたび受けていた上、雇止め通告やその後の措置が原告に対する加害意図を持ってされた違法な行為であり、これにより原告が精神疾患に罹患したとして、被告B及び被告会社に対し、不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

上司であるBが退社する際に元従業員の頭部に触れたことが複数回あるものと認められ,Bの上記行為は,社会通念上許容される限度を逸脱し,元従業員の人格権を侵害した違法なセクハラ行為に当たるというべきであり,また,Bが元従業員に対して「愛してる」などとメッセージを送信した上,元従業員からはぐらかすような応答がされたことに対して「もう,いい」などというメッセージを送信した行為は,元従業員を不安・困惑に陥れ,以後の就業環境を不快なものにする言動であるから,社会通念上相当性を欠く違法なセクハラ行為に当たるというべきであるから,Bは上記で指摘した言動について,元従業員に対し,不法行為責任を負う。
会社は,新入社員に対してはセクハラ防止に係る研修を実施しているものの,Bのような中途採用者に対してはこれを実施していなかったものと認められ,上記指導・教育義務を一部懈怠していたものというべきであり,そして,Bの違法なセクハラ行為は,その不適切であることが比較的明白な態様といえ,会社がBら中途採用者に対してもこうした指導・教育を適切に実施していれば,Bがこれらの行為に及ぶことを未然に防ぐことができた蓋然性が高いといえるから,会社は債務不履行責任に基づき,Bのセクハラ行為により元従業員に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
Bは,元従業員の上司に当たり,その職務上の地位の違いなどにも照らすと,Bの行為は,元従業員の就業環境を不快にさせ,相応の精神的苦痛を与えたものといえるが,その一方で,いずれの言動もそれ自体が卑わいな性格のものとはいえず,身体的接触については,その部位や接触時間,回数も複数回であること等から,上記行為により生じた元従業員の精神的苦痛に対する慰謝料としては,B及びA社に対し,10万円と認めるのが相当である。
元従業員は,会社に入社して以降,本件雇止めに至るまでの間に,雇用契約を4度更新し,契約期間も4年に達していたのであり,その間,社長秘書その他の継続的業務に従事してきたものであって,本件雇止め時点において,元従業員と会社との雇用契約は更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められるから,労契法19条2号の事由があると認められる。
会社は,本件雇止めの効力が認められない場合でも,元従業員は本件雇止めを通告された後、就労不能状態に陥ったから,会社の定める普通解雇事由である「身体又は精神の障害により業務に耐えられないとき」に当たると主張するが,本件解雇は,有期雇用契約をその期間途中で終了させるものであるから,「やむを得ない事由」がなければ解雇することができないところ,元従業員が心身面でも就労不能状態に陥ったのは,それが業務上傷病に当たるか否かは別としても,会社による本件雇止め通告により元従業員が多大な精神的衝撃を受けたことを原因とするものと認められるところ,本件雇止めに客観的合理的理由がなく,社会的相当性も認められないから,本件解雇は無効である。

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