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【控訴審】退職勧奨された医師の、定年までの賃金相当額の請求が認められた碧南市事件(平成28年11月11日名古屋高裁)

概要

碧南市民病院で歯科医師として勤務していた被控訴人(原告)が、同病院の病院長による違法な退職勧奨を受けて退職せざるを得なくなったと主張して、同病院を運営する控訴人(被告・碧南市)に対し、国家賠償法1条1項に基づき、退職による減収分の逸失利益、支給された退職手当と定年まで勤務した場合の退職手当との差額、慰謝料及び遅延損害金の支払いを求め、原審が請求を一部認容した事案の控訴審。

結論

一部変更

判旨

教授は,A(原告医師、以下同じ)に対し,Aが本件退職勧奨を応諾しない場合には,Aの下で診療等に従事する歯科医師について後任を派遣しない事態があることを告げたのであり,Aの下で診療に従事する歯科医師が派遣されないという事態は,病院に求められている水準の歯科診療を行うことが困難となることが確実であって,病院の歯科口腔外科部長として地域医療に従事するAにとっては,重大な不利益であるといえるところ,教授が,Aに対し,上記の不利益を告知したことについては,本件退職勧奨の諾否にかかるAの自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し,その自由な意思決定を困難とするものであると認められるから,教授が,病院長の依頼に基づき,病院長による本件退職勧奨の一環として,Aに対し,本件医局の関連病院の人事に関する影響力ないし事実上の権限をもって上記の不利益が生ずると告知して,暗に本件退職勧奨を応諾するよう求めたことは,少なくとも過失によりAの自由な意思決定を侵害する不法行為にあたる。

Aが違法な本件退職勧奨により被った財産的損害について4078万9726円(減収分にかかる損害が3167万7203円,退職手当にかかる損害が911万2523円)であると認める。
Aは,違法な本件退職勧奨を受けて定年より7年も前に病院を退職するのを余儀なくされたから,これにより相当程度の精神的苦痛を受けたと認められ,そして,本件退職勧奨の理由とされたパワハラの疑いについて事実的根拠を欠くとまではいえないが,他方,Aが当初本件退職勧奨を一旦応諾するような意向を示した時点までに,違法な退職勧奨が行われたとはいえないこと,教授は,病院長から本件退職勧奨を依頼されたものの,当初はAからの相談に応じる形で本件退職勧奨に対応していたのであり,Aがその諾否について平成24年2月になっても言を左右にしたため,Aの再就職を含む本件医局の関連病院の人事の確定に支障を生じたとみられ,そのことも,教授が,当初の姿勢とは異なり,Aに対し不利益を告知して暗に本件退職勧奨の応諾を求めるに至った動機であったとうかがわれるといった本件退職勧奨の態様その他一切の事情を総合考慮すると,上記の精神的苦痛に対する慰謝料としては,50万円が相当であると認められる。
Aは,病院長による本件退職勧奨を一旦は応諾する意向を示した後で言を左右にしていたところ,教授から,平成24年3月2日,違法な本件退職勧奨を受けて,本件退職勧奨を応諾せざるを得なくなり,同月12日に退職願を提出して,同月31日をもって病院を退職したのであるから,教授が,病院長から依頼されて病院長による本件退職勧奨の一環として,Aに対し,退職を勧奨したこととAが病院を退職したこととの間に相当因果関係があると認められ,そして,Aは,同退職したことにより,損害を受けたのであるから,同損害と本件退職勧奨との間に相当因果関係がある。

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