【控審審】ヒゲに関する身だしなみ基準に関するする紛争(令和1年9月6日大阪高裁)
概要
控訴人が設置していた地方公営企業である市交通局の職員として地下鉄運転業務に従事していた被控訴人らが、ひげを剃って業務に従事する旨の控訴人の職務命令又は指導に従わなかったために人事考課において低評価の査定を受けたが、上記職務命令等及び査定は、被控訴人らの人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して、控訴人に対し
(1)任用関係に基づく賞与の請求として、各賞与に係る本来支給されるべき適正な額との差額及び遅延損害金の各支払を求めるとともに
(2)国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ慰謝料及び弁護士費用の損害賠償金並びに遅延損害金の各支払を求めたところ、
原判決が、被控訴人らの
(1)の賞与請求をいずれも棄却し、
(2)の損害賠償請求を一部認容したため、
控訴人が控訴し、被控訴人らが附帯控訴した。
結論
棄却
要旨
本件身だしなみ基準は、職務上の命令として一切のひげを禁止し、又は、単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものとまでは認められず、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものであること、一定の必要性及び合理性があることからすれば、本件身だしなみ基準の制定それ自体が違法であるとまではいえない。
ひげを生やす自由が個人的自由に属する事柄であることを前提として、原判決の判示するとおり、労働者のひげに関する服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、かつ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認めるべきものである。
本件各考課は、元職員らがひげを生やしていることを主たる減点評価の事情として考慮したものであること、したがって、上記評価が人事考課における使用者としての裁量権を逸脱・濫用したものであって国家賠償法上違法である。
本件各考課及び運輸長の元職員に対する発言(「守らなければ処分の対象とするということです」等)により、元職員らが心理的圧迫や精神的苦痛を受けたこと、元職員らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ20万円等が相当である。
元職員らは、本件身だしなみ基準の制定そのものが違法であるとして、この運用に基づく所長らの違法行為は、元職員らに対する組織的、継続的ハラスメントであると主張するが、本件身だしなみ基準の制定自体が違法であるといえず、運輸長の発言を除いて元職員らの上司に国賠法上違法とされるような行為があったと認められないから、本件各考課及び運輸長の発言が違法性を有するとしても、これをもって直ちに、大阪市が元職員らに対し、組織的、継続的ハラスメントを行ったと評価することはできない。