教諭に対する停職処分、指導改善研修命令の違法性(令和1年5月27日大阪地裁)
概要
大阪府立の高等学校の教諭であった原告が、同校校長の原告に対する成績評価、大阪府教育委員会の原告に対する停職処分及び府教委の原告に対する指導改善研修命令等について、いずれも裁量権を逸脱又は濫用する違法なものであったことに加え、研修担当者らが指導改善研修期間中、原告に対して違法なパワハラ行為を行ったことを理由として、国家賠償法1条1項に基づき、これらの各行為によって被った経済的損害、精神的損害及び弁護士費用の合計及び遅延損害金の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
元教諭が,学ぶ力の育成(授業力)の項目に対する業績評価及び能力評価について,23年度評価及び24年度評価においては,おおむね目標を達成している又はおおむね能力を発揮していると評価され,25年度評価においては業績評価でおおむね目標を達成している,能力評価で能力を発揮していないと評価されたことにつき,校長がその裁量権を逸脱し又は濫用したということはできないから,国家賠償法上違法であるとはいえない。
元教諭は,教頭から、女子生徒Aに対する指導につき机を叩いたり,大声で叱責するなど威圧的な態度をとらず,粗暴な言葉を使わないように注意を受けたにもかかわらず,女子生徒Bに対し机や壁を叩き「お前がやってることはわかっとんねん」「正直に言えや」などと言い,女子生徒Bの担任教諭が制止するのも聞かず叱責を続けたこと,また元教諭は,Cが喫煙による2度の停学処分を受けていたにもかかわらず,再び喫煙した事実が本件高校に発覚したことを知り,Cの自宅に赴き,Cの左頬を右平手で1回叩くなどしたところ,元教諭の同行為が,たとえCに対して生活態度を改めるよう自覚させるという目的を達成するためのものであったとしても,身体に対する侵害を内容とする手段を用いるべき必要性は何ら認められないことから,元教諭の上記行為は,学校教育法11条ただし書の体罰に該当すると解するのが相当であり,元教諭の上記行為は法令等に従う義務を定めた地方公務員法32条に違反しかつ全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たると認めるのが相当であるから,所定の懲戒事由がある。
そもそも本件停職処分は,1か月の停職を内容とするものであるところ,本件条例によれば,生徒に体罰を加えた場合の標準的な懲戒処分の種類は「戒告,減給又は停職」とされ,また停職の期間については,1日以上6月以下とされていることからすると,本件停職処分は本件条例における標準的な懲戒処分の種類の中で,選択可能な幅の中から選択されたものであると認められるところ,元教諭の行為には,体罰や粗暴な言動,威圧的な言動を用いたという問題点があり,元教諭自身には,指導方法に関する指示に従わず,自らの考えを優先させて行動しようとするという問題点があると指摘することができるから,選択可能な処分のうち最も重い種類の処分を選択しつつ,停職期間を1か月とした本件停職処分については,懲戒権者が裁量権を付与した目的を逸脱又は濫用したと評価することはできず,国家賠償法上違法と評価することはできない。
本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における元教諭に対する発言が,国家賠償法上違法といえるか否かについて,本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における元教諭に対する発言のうち,室長の言動については国家賠償法上違法であるが,そのほかの点はいずれも国家賠償法上違法と評価することはできず,室長の言動は,声を荒げて元教諭に対し謝罪を求めるという内容のものであるところ,元教諭の発言内容が事実に反することや,元教諭の態度が引き金となり,また元教諭が「いや,言ってないですけど」「まあ,そういう風に捉えられたんでしたら,すいませんでした」などと元教諭自身,自らの発言等に不適切な点があったことを認めていることから,室長の同言動による元教諭の慰謝料は5万円をもって相当である。