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自殺した亡従業員の会社に対する損害賠償請求が一部認められた事例(平成30年5月24日大津地裁)

概要

原告らが、亡従業員が勤務していた被告会社の店舗の店長である被告Aが、亡従業員に対し、注意書の徴求、競合店舗の価格調査の強要等のパワハラを行ったことにより、同人が自死したとして、被告Aには不法行為が成立し、また使用者である被告会社には使用者責任又は安全配慮義務違反を原因とする債務不履行が成立すると主張し、亡従業員の夫子である原告らが、それぞれ被告Aに対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては主位的に使用者責任に基づき、予備的に債務不履行に基づき損害賠償を求めた。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

店長が亡従業員に本件配置換えについての意向を打診した際に説明した価格調査業務の内容は,会社の親会社である訴外株式会社ケーズホールディングスが編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず,これをフルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において,極めて特異な内容のものであり,たとえ,店長に,亡従業員に対して積極的に嫌がらせをし,あるいは,本件店舗を辞めさせる意図まではなかったとしても,本件配置換えの結果,亡従業員に対して過重な内容の業務を強いることになり,この業務に強い忌避感を示す亡従業員に強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところがあったというべきであるから,店長による本件配置換え指示は,亡従業員に対し,業務の適正な範囲を超えた過重なものであって,強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で,不法行為に該当すると評価するのが相当であるから,亡従業員に対する店長の行為のうち,本件配置換え指示については,亡従業員に対する不法行為を構成する。
一方で、会社においては店長等の管理職従業員に対してパワハラの防止についての研修を行っていること,パワハラに関する相談窓口を人事部及び労働組合に設置した上でこれを周知するなど,パワハラ防止の啓蒙活動,注意喚起を行っていることが認められるし,本件においても,亡従業員は店長からの本件配置換え指示について,パワハラに関する相談窓口となっている会社労働組合の書記長に対して相談したところ,書記長は,これを受けて部長に対して本件配置換えを実行させないように指示されたいとの連絡をしているのであって,会社における相談窓口が実質的に機能していたことも認められるから,会社としては,パワハラを防止するための施策を講じるとともに,パワハラ被害を救済するための従業員からの相談対応の体制も整えていたと認めるのが相当であるから,会社の職場環境配慮義務違反を認めることはできない。
店長の行為と亡従業員の精神的苦痛との因果関係について,亡従業員は価格調査業務に対して強い忌避感を抱いており,結果的に自死するに至るほどに思い悩んでいたことからすれば,亡従業員が,店長による本件配置換え指示によって多大な精神的苦痛を受けていたことは明らかであり,そして,店長において,亡従業員が価格調査業務に対して強い忌避感を抱いていたことを認識していた以上,本件配置換え指示によって亡従業員に強い精神的苦痛を生じることを認識していたこともまた明らかである。
本件配置換え指示による亡従業員の精神的苦痛を慰謝するための金額としては,かかる行為と亡従業員の自死との間に結果として条件関係があることを否定し難いことなど,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,100万円が相当である。

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