社会保険加入手続き遅延等による損害賠償請求が認められた例(平成26年12月24日東京地裁)
概要
被告会社の従業員であった原告が、被告会社の代表者から継続的にパワハラやセクハラ等を受けたなどとして、被告代表者に対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては会社法350条又は債務不履行に基づき、損害賠償等を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
従業員が主張するパワハラ・セクハラ等の事実は認めることができず,本件会社らに対する慰謝料請求は認められないが、代表取締役が約1年にわたり本件従業員の社会保険への加入手続を遅滞させていたことは,労働契約上,本件従業員について社会保険として厚生年金加入の手続を取ることをすべき義務を負いながら,あえて約1年にわたりその手続を怠って,違法に本件従業員の有する法律上保護される利益ないし期待権を侵害し,本件従業員において,将来における厚生年金の受給関係に被保険者期間が資格期間を満たさないなどの悪影響があるかもしれないという精神的負荷をかけ,この精神的負荷による精神的苦痛という損害を与えたことが認められ,これは不法行為にあたり,本件従業員の精神的苦痛について,5万円の慰謝料が相当である。
被告会社は,会社法350条により,代表者がその職務を行うにつき第三者に加えた損害を賠償する責任を負うところ,第三者である従業員の社会保険加入の手続をいかに取り扱うかはその職務に含まれる行為であるから,代表取締役の不法行為は,本件会社の職務を行うについてのものとして,本件会社にも代表取締役と連帯して不法行為責任を発生させる。
従業員は,労働契約に付随する従業員の社会保険加入手続を取ることをすべき義務についての債務不履行責任に基づく慰謝料請求も行っているが,債務不履行に基づく損害賠償として慰謝料を請求することができるのは,人身や人格的利益等に対する侵害があった場合のように重大な侵害結果が生じていると評価すべき特段の事情がある場合に限られ,本件においては上記特段の事情があるとは認められず,債務不履行責任に基づく慰謝料請求は理由がない。