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【控訴審】パワハラに関して和解した後に、和解内容を守らなかったことにつき損害賠償が認められた例(平成27年8月26日東京高裁)
概要
被控訴人組合(被告・労働保険事務組合)の従業員である控訴人(原告)が、職場のパワハラ等による損害の賠償を求めて被控訴人組合及び個人の被控訴人(被告)らを被告として提起した訴訟において、裁判上の和解が成立したにもかかわらず、その後、被控訴人らが、同和解の合意事項を遵守しないばかりか、被控訴人組合の通常総会等において、共同して控訴人に対する名誉棄損行為を行ったため、著しい精神的苦痛を受けたとして、被控訴人らに対し、債務不履行又は共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して慰謝料等の支払いを求め、第1審が請求を棄却した事案の控訴審。
結論
取消
判旨
SR(労働保険事務組合)の副会長らは,前訴和解に基づいて職場環境の配慮に努めるよう求めた本件従業員「過去はどうでもいいじゃないですか。」などと述べ,控訴人の求めに取り合わなかったこと,前件訴訟提起の原因について,SRらに非があるのではなく,むしろ本件従業員に非があるように受け取られる発言をし,他方で,SRとしての反省の意思の表明や再発防止策についての方針の発表及びその説明を行なわなかったのであり,前訴和解後において,和解条項に反する不誠実な態度をとり続け,労務管理において職場環境に配慮する等して,再発防止に努める旨の前訴和解に基づく義務の履行を怠ったというべきであり,前訴和解における再発防止義務につき不履行があったものである。
本件周知義務は,前訴和解について,その内容をSRの全職員に回覧する等して実際に周知させることを義務として負ったものであり,書面を形式的に職員に回覧することのみを意味するものでなく,SRとしては,前訴和解の成立を受け,会長らの言動が端緒となって本件従業員が前件訴訟を提起したことを重く受け止めているとの認識及び姿勢を全職員に実際に周知させるべきであり,かつ,今後の労務管理において職場環境に配慮する等して,再発防止に努めること,これを本件従業員と約束したことについて,全職員が了解可能となる程度に周知させる義務を負ったというべきであり,SRの前訴和解後の対応は,周知義務の履行としても不十分なものである。
副会長の発言は,本件総会に出席した会員らに,本件従業員が問題行動をする職員であるとの印象を持たせ,その社会的評価を著しく低下させる行為であり,その発言内容は,総会における議案の説明又は質問に対する答弁として必要かつ相当な範囲を超えているから,違法に本件従業員の名誉を毀損している。
SRは,前訴和解に基づく再発防止義務及び周知義務の不履行について,債務不履行責任及び不法行為責任を負い,理事である副会長の名誉毀損行為について,不法行為責任を負い,会長は,再発防止義務の不履行について,債務不履行責任及び不法行為責任を負うとともに,周知義務の不履行及び副会長の名誉毀損行為について,共同不法行為責任を負い,副会長らは,前訴和解に基づく再発防止義務及び周知義務の不履行並びに被控訴人副会長の名誉毀損行為について,いずれも共同不法行為責任を負う。
前訴和解成立後も,会長らがこれに反する行動をとり続けたことにより,本件従業員は,SRの職場の中で会話が成立しない状態となり,職場で孤立するに至ったこと,加えて,うつ状態との診断により,休職を余儀なくされていること,休職期間の満了をめぐり新たな紛争が発生していること等からすると,本件従業員の精神的苦痛は多大なものと認められるから,これに対する慰謝料額は300万円を下回るものではないというべきであり,また,弁護士費用は30万円を下回るものではない。