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【第1審】退職勧奨された医師の、定年までの賃金相当額の請求が認められた碧南市事件(平成28年2月23日名古屋地裁)

概要

市民病院で歯科医師として勤務していた原告が、同病院の病院長による違法な退職勧奨により退職せざるを得なくなったとして、被告(碧南市)に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をした。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

退職勧奨は,その性質上,これを行うか否かを任命権者において自由に決しうるものであり,その反面,被用者は理由のいかんを問わず,その自由な意思において,勧奨を受けることを拒否し,あるいは勧奨による退職に応じないことができるはずのものであるから,勧奨者が被用者からの退職の同意を得るために不当な強制にわたったり,故意に詐言を弄したり,その他著しく妥当性を欠く言動に及んだりした結果,被勧奨者の自由な意思決定を妨げて退職に至らしめた場合には,当該退職勧奨行為は違法であると解すべきである。
そこで、病院長と医師との面談は平成23年11月11日,平成24年2月9日しか行われず,2度目の面談で医師から退職勧奨の撤回を求められたのに対してこれを拒否していること,そして病院長は自ら退職勧奨せず,教授に医師に対して退職勧奨をするよう依頼し,教授が継続的に医師とメールのやり取りをして退職勧奨を行っていたことが認められるところ,教授は医師との関係で人事権に類する事実上の権限を有しており,さらに教授の退職勧奨の態様を見ると,教授は,医師が退職を拒み,事実関係の確認を求めているにもかかわらず,事実確認は事実公表と同様になること,病院と事を構えれば解決までの間業務専念義務違反になること,調査結果は退職金などに反映することなど,医師にとって不利益な事態をほのめかし,かつ事実関係が明るみに出た場合の医療界での病院の立場を考慮して,暗に退職を受け入れるように求めているところ,このような働きかけは,教授の医師に対する立場を併せて考慮すれば,医師の自由な意思決定を妨げるものであったといえるため,病院長が自ら医師に対して退職勧奨をし,かつ教授に対して医師への退職の働きかけを依頼した一連の行為は違法である。

本件病院の部長職に任用された者は,免職処分を受けない限り本件病院において定年である65歳まで勤務することになるのが通例であり,医師は,退職勧奨によって退職していなければ,定年退職日までの7年間本件病院に勤務することが認められるため,本件病院で得ていた給与から医師が再就職先の病院で得た給与を差し引いた額,および本件病院で定年まで働いていた場合の退職手当金から退職勧奨により退職した際に支払われた退職金を差し引いた額が,財産的損害としての差額相当額として認められ,また精神的苦痛については100万円をもって慰謝するのが相当であるところ,本件退職勧奨と財産的・精神的損害との間に相当因果関係が認められるため,医師の請求は,4178万9726円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容される。

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