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【第1審】ハラスメントを理由とした懲戒処分に関する紛争(平成30年11月9日鳥取地裁)

概要

被告・国立大学法人の設置する大学院の教授である原告が、学生に対してハラスメント行為等を行ったとして、被告から停職6か月の懲戒処分を受けたことに関し、本件処分が無効であるとして、被告に対し
(1)本件処分の無効確認
(2)被告大学院医学系研究科臨床心理学専攻長の地位にあることの確認
(3)同研究科臨床心理相談センター長の地位にあることの確認
(4)停職期間中の未払賃金及び未払賞与及び遅延損害金の支払
(5)本件処分が違法であることを理由に不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び遅延損害金の支払
(6)名誉棄損における原状回復処分として新聞及び被告ウェブサイトへの謝罪広告の掲載
をそれぞれ求めた。

結論

一部認容、一部棄却、一部却下

要旨

本件各セクハラ行為に対する処分量定として,停職又は減給を選択し得るものとされていること,本件各セクハラ行為の態様の悪質さが軽視できず,動機に特に汲むべき点がないこと,明確な故意に基づく言動であることや教授が学校法人において要職を担当する教授でありその職責が重いこと,これに伴う社会的影響の大きさを無視できないことなどを踏まえれば,重い停職処分を選択することはやむを得ないものというべきであるが,停職の選択に当たっては,停職期間の量定についても慎重な配慮を要するものであるところ,本件各セクハラ行為が,わいせつな言辞等を含まないもので「意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動の繰り返し」という事由が想定する中で最も重い類型に該当するとは解されないこと等を考慮すれば,停職期間の選択としては,3か月程度にとどめるべきであり,本件各セクハラ行為に対する処分として最大期間である6か月の停職処分を選択したことは重きに失するものというべきであるから,本件処分については社会通念上相当とは認められないもので懲戒権の濫用として無効である。
使用者による懲戒処分が懲戒権を濫用したものとして無効であった場合でも,当該懲戒権の行使が相当であると判断したことが,その根拠とした資料及びその収集方法等に照らし,相当の理由があるものと認められる場合には,当該懲戒処分を行ったことが不法行為を構成するものと解することはできず,懲戒処分無効の当然の効果である法的利益の回復を超えて,被用者の法的利益の侵害を理由とする損害賠償請求を行うことはできないものと解すべきであるところ,本件処分は無効であるが学校法人において本件処分が相当であると判断したことは,本件に現れた根拠資料及びその収集方法等に照らし,相当の理由があったものと認められるから,本件処分を行ったことが不法行為を構成すると解することはできない。
学校法人は,職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分については原則として公表することとしているところ,教授に対する停職処分である本件処分は特に社会的影響の大きなものに当たるものと認められることなどからすれば,本件処分の公表の態様は,それ自体合理的な学校法人内部の組織規範に沿ったものであったと認められること等から,教授が名誉回復措置として謝罪広告を求める請求は理由がない。
教授の専攻長及びセンター長の任期は,いずれも平成30年3月31日までであり,教授は,同日の経過により既にこれらの地位を失っているから,専攻長及びセンター長の地位確認の訴えについては訴えの利益がないもので不適法である。
本件処分は無効であり,教授は本件処分のために労働を提供できなかったものであるから,停職期間中の賃金及び賞与の請求は理由があるが,ただし給与月額の内訳にある通勤手当2000円分については,通勤手当が支出された実費を補う実費補償的性質を有するものであって,教授が停職期間中通勤費用の支出をしていないことから,本件処分の無効に伴い学校法人が教授に対して支払うべき賃金,賞与は,6か月分の月例給与及び12月分の賞与である。

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