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【第1審】局長の言動に違法な部分があり、その点につき損害賠償請求が認められた事例(平成28年3月10日福岡地裁小倉支部)

概要

郵便局において郵便局員として稼働していた亡労働者の妹であり、相続人である原告が、亡労働者がその上司である郵便局長からパワハラを受け、そのためにストレスを原因とする致死性不整脈を突発して死亡するに至ったなどと主張して、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金の一部を請求した。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

局長の本件言動のうち,窓口業務を希望する旨申し出る亡労働者に対して「前局長から聞いているが窓口には就かせられない」「いつ辞めてもらってもいいくらいだ」などと述べたことは,その内容からして,亡労働者に対し,仕事の能力に欠ける旨をあからさまに伝えるものであり,局長においては,当然に亡労働者のうつ症状について認識していたものと認められるところ,局長による上記言動は,社会通念上の相当性を欠くものであるというほかなく,また,局長の本件言動(亡労働者が職場復帰することを願い出たことに対し,「復職したいというが11月から1月10日まで郵便の繁忙期だからそれに耐えられるか。あんたが出てきたら皆に迷惑がかかる」「罵声が飛ぶかもしれんばい。それに耐えられるか」「あんたが病気になったら我々としては怖い。我々は容赦せんからな」「郵便物投げつけるぞ」「毎日残業してもらうぞ」などと亡労働者の上記願い出を強く拒絶するとともに,脅迫した)は,亡労働者の勤務状況によっては亡労働者に対して暴力をふるうことをも厭わない旨を表明することにより,亡労働者に対して職場復帰の時期を遅らせることを強く求めるものであって,脅迫にも当たり得るというべきものであり,うつ病を理由に病気休暇を取り,回復の兆しが見えたことから職場復帰を目指すこととなった亡労働者に対するものとしては,著しく配慮を欠く極めて不適切なものであったというほかなく,亡労働者に対する不法行為を構成するものであるとともに,会社には,亡労働者に対する安全配慮義務違反があったものと認められる。
亡労働者は,別の郵便局に異動後,自らが望む仕事とは異なるものの,保険渉外業務の後方支援の仕事を行い,仕事の負担自体は軽くなったとの認識を示していたところ,局長による本件言動(前段部分のもの)がされたことにより,精神的苦痛を被り,翌日の朝から出勤前に嘔吐し,めまいや頭痛を訴えるなどそのうつ症状は悪化し,その結果,病気休暇を取得することを余儀なくされたのであるから,局長による本件言動(前段部分のもの)とこれにより亡労働者が被った精神的苦痛及び亡労働者のうつ症状の増悪との間には,因果関係が認められ,また,亡労働者のうつ病については,産業医により,病気休暇の期間満了後に職場復帰が可能であるとの見方がされる状態にあったところ,局長による本件言動(後段部分のもの)がされたことにより,亡労働者は精神的苦痛を被り,口数が減り,表情も暗くなり,食欲もなくなるなどその精神状態が悪化し,更には職場復帰を諦め,翌年3月末まで休職することを余儀なくされたものであるから,局長による本件言動(後段部分のもの)とこれにより亡労働者が被った精神的苦痛及び亡労働者のうつ病の増悪との間には,因果関係が認められる。
局長による本件言動(前段部分)及び本件言動(後段部分)に係る不法行為又は当該言動に係る会社の安全配慮義務違反により,亡労働者には慰謝すべき精神的苦痛が生じたものと認めるのが相当であるところ,亡労働者のうつ症状及びうつ病が増悪し,休業を余儀なくされたことなど本件に現れた一切の事情を総合考慮し,これを200万円と認める。
各損害が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れた亡労働者の性格等により発生し又は拡大するに至ったものと評価することはできず,本件に現れた一切の事情を考慮しても,本件において過失相殺及び素因減額を行うのは相当ではない。

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