【控訴審】上司のパワハラ行為の不法行為責任及び使用者責任が認められた例(平成27年9月16日名古屋高裁金沢支部)
概要
亡従業員の父である1審原告が、従業員が自殺した原因は、勤務していた1審被告会社の上司であった1審被告Aによるパワハラや暴行等の不法行為に加え、配属部の部長として部下の心身の状況や安全に配慮をすべき1審被告Bによる従業員の恒常的長時間労働や1審被告Bのパワハラを放置するなどした不法行為、かつ、1審被告会社による長時間労働や達成困難なノルマの設定、社内教育等という安全配慮義務に違反した不法行為又は債務不履行にあると主張して、1審被告らに対し、損害賠償を求め、原審が、1審被告A及び被告会社の不法行為責任を認め、1審被告Bの不法行為責任は否定して、一部認容、一部棄却の判決をしたので、双方が控訴をした。
結論
棄却
判旨
亡従業員が生前記していた白手帳及び黒手帳の記載内容に照らせば,Aは亡従業員に対し,少なくとも「死んでしまえばいい」「辞めればいい」等の本件発言をしたと認めるのが相当であり,福井労働基準監督署が,Aを含む複数の関係者から聴取した内容に基づいて,Aが亡従業員の人格を否定するような本件発言をしたと認定していること,本件発言の内容や態様にかんがみると,社会通念上許容される業務上の注意指導の範囲を超え,亡従業員に対する不法行為を構成すると解されること等から,亡従業員の父の本件請求は,原判示のとおり,会社及びAに対し不法行為に基づく損害賠償として7261万2557円等の支払を求める限度で理由がある。
Aの本件発言による不法行為があったことを考慮しても,亡従業員の時間外労働の程度からして,これが精神障害発症の一因になったと解することができないことはもとより,Bにおいて,亡従業員の労働時間を軽減させる措置を講じなかったことが,直ちに安全配慮義務等の注意義務に違反するということはできず,また,亡従業員の父は,Bが,Aによる本件発言を認識し又は認識することができたにもかかわらず,これを放置して何らの対策を講じなかったと主張するが,Bにおいて,亡従業員がAから本件発言を受けていることを認識していたと認めるに足りる証拠はなく,さらに,Bが亡従業員に対して厳しく叱責し暴言を吐いたことを認めるべき証拠はないこと等から,Bについて不法行為責任があることをいう亡従業員の父のBに対する本件請求は,理由がない。
会社について,心身の健康を損なう危険のあるような恒常的長時間労働を強いたと評価することはできず,また,達成困難なノルマを設定したとか,個性・人格を無視した社内教育を行ったと認めうる証拠はないから,これらの点を根拠として会社の不法行為責任又は債務不履行責任をいう亡従業員の父の主張は理由がない。
Aの本件発言がされた際には,亡従業員にも仕事上の度重なる不手際など,業務上の注意指導又は叱責を受けても致し方ない一応の理由があったとはいえ,本件発言がその内容や態様の点で,社会通念上許容される業務上の注意指導の範囲を超え,亡従業員に対する不法行為を構成することはできず,加えて,亡従業員は入社後1年に満たない高卒の新入社員であったこと等も考慮すれば,亡従業員の仕事上の不手際等について,慰謝料算定の一事由として斟酌することはおくとしても,過失相殺の事由としなければ損害の公平な分担の理念に反するとまでは解されず,会社らの過失相殺の主張は採用することができない。