
懲戒解雇、賃金減額が無効として損害賠償請求が認められた事例(平成30年8月15日東京地裁)
概要
被告会社の従業員が、被告に対し懲戒解雇が解雇権の濫用で無効であり、原告に対する不法行為に当たり、また被告在籍中に被告代表者から日常的にパワハラ又は嫌がらせを受け、これらが原告に対する不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、逸失利益及び慰謝料の合計並びに遅延損害金の支払を求めるとともに、被告が原告に対して2回にわたって行った賃金の減額が無効であるなどと主張し、原告と被告との間の労働契約上の賃金請求権に基づき、未払月例給与及び未払賞与の合計及び遅延損害金の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
懲戒事由にあたる事情(独断で受発注書類の一部を破棄したこと,顧客からの問い合わせに対し「わからない」と答えたこと,取引先に送付する書類を他の取引先に誤送付したこと,配送漏れがあったこと,勉強会に参加しなかったこと,来週月曜日から出社しないと発言したこと,他社工場からの発注を拒んだこと)については,いずれも会社又は他社に大きな損害又は業務上の支障を与えるようなものではなく,元従業員にはこれまで懲戒処分歴が全くない上,本件解雇に当たっては,元従業員に事情を聴取するなどの手続もなく,上司から会社代表者への電話による一方的な訴えを契機として,突如元従業員に対し,当該通話の中で通告されたこと,本件解雇による元従業員の経済不利益なども考慮すると,上記懲戒事由について,会社が本件就業規則に定める4段階の懲戒処分の中でも最も重い懲戒処分を選択したことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められない場合に当たるというべきであるから,懲戒解雇として行われた本件解雇は,労働契約法第15条の規定により,懲戒権を濫用したものとして無効となる。
会社のした懲戒解雇は,著しい解雇権の濫用行為に当たるものというべきであり,労働契約法第15条に違反する無効な解雇というだけでなく,民法709条にいう「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当し,そして会社代表者は,長年にわたり使用者として従業員の労務管理を担当してきた者であり,その経験に基づいて,使用者として通常払うべき法令等の調査,注意義務をつくしていれば,本件解雇のような性急かつ拙速な懲戒解雇は許されないものであることを認識することは可能であったといえるところ,会社代表者はこれを怠り,その場の勢いで本件解雇の意思表示を行ったと評価せざるを得ず,少なくとも本件解雇について過失が認められ,本件解雇により元従業員には相当因果関係を有する損害が発生していることから,元従業員は会社に対し本件解雇について,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができる。
本件解雇は,著しく社会的相当性を欠く性急かつ拙速なものであるところ,元従業員は,違法な本件解雇により約11年間続いていた本件労働契約が突如終了し,会社からの収入を絶たれた上,その年齢から見れば,本件労働契約と同一の条件での再就職は困難な状況に置かれたというのが相当であるが,他方で元従業員は,本件解雇後直ちに会社への復帰を断念し,解雇予告手当を請求した上で,就職活動を開始しパートタイム労働者として新たな勤務先と労働契約を締結していること等の事情も考慮し,本件解雇時の元従業員の月例給与額の6か月分である127万5000円をもって,会社による違法な本件解雇との相当因果関係がある損害と解するのが相当であり,また元従業員は会社代表者から業務中に注意を受けた際に,後頭部を叩かれ,他の従業員の前で寄生虫と同視するような発言を受けたところ,これらによって元従業員が受けた身体的,精神的な苦痛に鑑み,慰謝料として10万円をもって相当と認める。