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【控訴審】セクハラを理由とする懲戒としての停職処分は有効、人事権を行使した降任処分は無効とされた例(平成26年8月8日福岡高等裁判所宮崎支部)

概要

一審原告(大学教授)が、一審被告(公立大学法人)に対し、一審被告がした停職処分及び降任処分の無効確認、各講義及び各演習の指導担当者たる地位にあることの確認、停職期間中の給与等の支払い、降任処分によって引き下げられた給与と引き下げ前の給与の差額の支払い、慰謝料の支払いを求め、
原審(1審)が、停職処分は有効であるとしたが、降任処分は無効であるとして、給与の差額等を認めたが、双方が控訴をした。

結論

変更

判旨

元教授と大学との間の雇用関係はなお継続しているところ,本件停職処分については,これが懲戒処分としてされたものであることからして,元教授は,今後同処分のために人事評価上その他種々の不利益を被ることが想定されること,本件降任処分については,同処分が懲戒処分の性質を有するか否かという点については争いがあるとしても,同処分が減給を伴うものであることや,本件降任処分の効力が排除されない限り,元教授は減給前の給与と減給後の給与との差額分の支払を受けられない状態が継続することになることからすると,上記請求等では賄うことができない部分が存在し,本件各処分の無効を確認することは,元教授の権利又は法律的地位に対する現実の不安・危険を除去するために必要かつ適切なものと認められ,上記訴えには,確認の利益がある。

元教授が学生に行った手作り弁当要求の事実は,学生がこれに対し不快感を感じ,ハラスメント申立てに至ったことからして,就業規則所定の「相手方の望まない言動により」「学生に不快感を与え」ひいては「就学環境を悪くすると判断されるようなことを行った」という要件に該当し,また,就業規則で禁止される信用失墜行為等にも該当し,その結果就業規則所定の懲戒の事由に該当すると認められるが,懲戒事由として挙げられている他の事実(いずれも当審において否認されている)が懲戒事由として極めて高い重要性を有していたこと,手作り弁当要求行為のみにより停職4か月の処分となるはずもないことは,第6回懲戒審査委員会議事録によっても明らかであり,本件停職処分は,重要部分において懲戒事由の認定を誤った違法があることになり,無効というべきであり,また,懲戒権行使における裁量権の逸脱濫用の観点からも無効である。

本件降任処分の理由とされた客観的事実のうち,複数回にわたって学生の肩や手首といった身体に触れたことについては,客観的裏付けを欠き,また,元教授がが講義中に学生に視聴させたDVDに出演している学生の恋愛について話をしたことから,元教授が職務に必要な適格性を欠いていると認めるには無理があるというべきであり,さらに,学生に対するハートマーク入りのメール送信については,元教授が学生から送信してきたメール中のハートマークを利用して送信したものであって,学生に不快感を与えたものでないことは明らかであり,教授から准教授への地位という経済面・名誉面等において重大な不利益をもたらす本件降任処分の要件としての「職務に必要な適格性を欠く」に該当すると認めるのは困難であること等から,大学が有する人事権を濫用したものと認めるのが相当であり,本件降任処分は無効である。

本件業務命令等は,本件各処分の各処分事由が認められることを前提として,専らハラスメント被害の申立てをした学生及び学生一般の学習環境を整えること等を目的としてなされたものと解されるところ,本件各処分の処分事由のうち事実として認められ,かつ処分事由として評価し得るのは,学生に対する手作り弁当要求行為であって,その余は事実として認められないか,処分事由として評価できないものであるから,本件業務命令等のうち学内における学生への接近禁止については必要性を肯定し得るものの,その余の部分については,手作り弁当要求行為を考慮に入れたとしても,必要性・合理性を欠いており,大学の教授としての研究指導活動を不当に制限するものとして違法無効なものと認めるのが相当であり、本件各処分及び本件業務命令等のうち学内における学生への接近禁止以外の部分は違法無効であり,元教授が被った損害の程度が著しいことも考慮すれば,大学には,これらを発したことに過失があると認めるのが相当であり,大学には過失による不法行為責任がある。

元教授は,大学がした本件各処分及び本件業務命令等により,現在まで不合理な疑惑をかけられると共に教授としての研究指導活動に対して著しい制限・不利益を受けて,本件各処分の無効判断による地位等の回復では償われない,多大なる精神的苦痛を被ったものと認められ,上記精神的苦痛に対する慰謝料としては,100万円を下らないと認めるのが相当であり,上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,10万円をもって相当と認め,停職期間中の給与・賞与と支払給与・賞与の差額分,教授と准教授の給与月額の差額分、また,大学の当審追加請求に係る未払賞与の支払いを認める。

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