保育園延長からの常習的なパワハラが精神的な苦痛を受けたとして慰謝料支払いが認められた例(平成25年8月16日福島地方裁判所郡山支部)
概要
被告・社会福祉法人の経営する保育園に勤務していた原告が、被告社会福祉法人が原告を懲戒解雇したことにつき、当該懲戒解雇は無効であると主張して、被告社会福祉法人に対し、同被告と原告との間の雇用関係が存在することの確認並びに未払賃金の支払を求めるとともに、上記保育園の事務長等であった被告が原告に対し勤務中にパワーハラスメントを行っていたなどと主張して、被告らに対し、被告については民法709条に基づき、被告社会福祉法人については民法715条、民法719条及び民法415条に基づき、連帯して損害賠償金の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
社会福祉法人は,保育士に対する本件懲戒解雇の理由として,保育士が「保育士全員に対し『全員で辞表を出そう。』と言い,保護者には『お子さんを○○保育園に入園しないようにしよう。』と扇動した」等をあげ,これらの行為が就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するというが,これら懲戒解雇事由に係る事実があったとは認めることはできず,社会福祉法人が保育士を懲戒解雇した理由として挙げている本件懲戒解雇事由は,いずれも根拠を欠くものであって,本件懲戒解雇は無効であり,平成23年3月24日以降も保育士と社会福祉法人の間の雇用契約関係は存在していると認められるけれども,同雇用契約上の雇用期間は同年7月30日までと定められており,また,保育士においても,同日までの未払賃金の支払を求めるにとどまっていることなどに照らすと,同日以後,同雇用契約が黙示的に更新されたということはできず,同日の経過により同雇用契約は終了し,保育士は,社会福祉法人における労働契約上の権利を有する地位がなくなったものと認めるのが相当である。
園長は,「バカヤロー。」「ふざんけんじゃねえ。」「死んじまえ。」といった本件暴言等に及んだことが認められ,本件暴言等は,保育士の人格を否定するような内容にまで及んでおり,かつ,それが頻繁・執拗かつ継続的に行われていたこと等を踏まえると,客観的に社会通念上許容される限度を超え,保育士に対して不当な心理的負荷を蓄積させるような行為であったものと優に認められる等から,不法行為を構成するものと認められ,また,社会福祉法人は,保育士に対して使用者責任を負い,社会福祉法人及び事務長は,これにより保育士に生じた損害を連帯して賠償する責任がある。
社会福祉法人は少なくとも違法なパワーハラスメント行為等が認められるような状況がありながらこれを放置するなど,適切な対応を講じないなどといった状況等が認められる等から,社会福祉法人らは,事務長の本件暴言等及び社会福祉法人の職場環境配慮義務違反により保育士が被った損害を連帯して賠償する責任があり,慰謝料は60万円と認める。