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未払い賃金とパワハラに基づく損害賠償請求(令和2年3月13日高知地裁)

概要

消防事務を共同処理することを目的とする一部事務組合である被告に雇用され、消防士として稼働する原告らが、
(1)本来であれば時間外・深夜割増手当が支払われるべきであるにもかかわらず、その一部しか支払われていないと主張し、被告に対しそれぞれ未払となっている当該手当及び遅延損害金並びに未払となっている当該手当に係る付加金及び遅延損害金の支払を求め、
(2)原告らのうちの一部の者は、被告の幹部職員からパワーハラスメントに該当する行為を受け、これによって精神的苦痛を被ったと主張し、これらの行為を受けたとする者が国家賠償法1条に基づき、被告に対し、それぞれ損害金及び遅延損害金の支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却

要旨

人事院勧告のうち給与勧告は,地方公務員の給与は首長が提出した給与条例の改正案を議会が可決,成立させることで改定されるものであり,当該職員の給与は条例に基づいて支給されなければならないから,時間外・深夜割増手当を算定する際に遡及するかについても,条例の規定に従って判断する必要があり,組合の職員である消防署に勤務する消防士らの給与については,市一般職員の給与に関する条例に従うこととされているところ,同条例附則1条2項と2条を総合的かつ合理的に解釈し,時間外勤務手当,休日勤務手当及び夜間勤務手当については遡及しないものとした規定であると解すことができ,そして労基法37条との関係では,時間外勤務手当を遡及しないと条例で定めることを禁止する規定とまではいえないものと解されるから,平成29年度の月例給与の額については,組合が主張する額を採用するのが相当であるところ,消防士らの時間外・深夜割増手当については,組合は上記時間外・深夜割増手当等を供託しているから,消防士らの請求は理由がなく,そしてこれによって組合が時間外・深夜割増手当の支払義務を履行したと認められるため,付加金に係る原告の請求にも理由がない。
消防士Aが主張する副署長の片足をAの膝の上に乗せた行為と高圧的な命令をした行為は,一連の経過として認められるものであるところ,Aに非があったわけではなく,その点について十分に配慮することなく,高圧的な態度でAにとって受け入れがたい命令を繰り返した上,足を膝の上に乗せるという暴行と評価をされてもやむを得ない行為に出ていることからすれば,副署長の行為は業務上の指導の範囲を逸脱しているといわざるを得ず,社会通念上違法なものというべきであるが,署長の行為については,副署長に謝罪をするように指導したことが不適切ともいえず,違法性は認められないから,副署長の上記の行為について,その経緯やAが受けた精神的苦痛等一切の事情を考慮して,3万円の慰謝料等を認める。
職場で使用する衣類等の配送物を副署長が取ったとの疑いをかけた消防士B及びCに責められる面がなかったとはいえないが,副署長の立場にある者が部下職員に対して,短くない時間正座をさせた上で問い詰め,当たらなかったとしても,ペットボトルを投げつけた行為は,業務上の指導の範囲を逸脱しているといわざるを得ず,社会通念上違法なものというべきであるが,他方,署長が個人面談を行わなかった行為については,個人面談を行う法的義務があったわけではないし,隠蔽したというBの主張は飛躍があるといわざるを得ないから違法とはいえないこと等から,署長に賠償責任を負わせるだけの違法性があるとはいえないことは明らかであり,副署長の上記の行為について,その経緯やBが受けた精神的苦痛等一切の事情を考慮して3万円の慰謝料等を認める。

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