元大学院生の損害賠償請求が一部認められた事例(平成30年4月25日大阪地裁)
概要
被告大学の設置する本件大学院社会学研究科社会システムデザイン専攻に在籍してた原告が、指導教員であった被告Aから労働組合活動等への干渉を受け、また、フィールドワークへの派遣を中止する命令を受けたり、指導を中止するなどのアカデミック・ハラスメントを受けたと主張して、被告Aに対しては民法709条に基づき、被告大学に対しては民法715条又は民法415条に基づき損害賠償の支払いを求めるとともに、被告大学が原告からのハラスメント相談を放置し、必要かつ公正な調査を行わないまま結論を出したなどと主張して、被告大学に対し415条に基づく損害賠償の支払いを求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
元大学院生と指導教員との間における労働組合活動に関するメールのやりとりの内容からすると,元大学院生が平成25年12月21日夜から同月22日未明にかけての指導教員からのメール等により,労働組合を脱退する旨決意したことは明らかであり,そして,当時大学院1年次であった元大学院生にとって,この時点で某町でのフィールドワークが叶わず,指導教員にも降りられるということになれば,修士論文の完成という大学院生にとっての最重要課題に多大な影響を及ぼすことは明らかであり,指導教員が元大学院生に対し,労働組合活動を継続する場合には,某町へのフィールドワーク派遣のみならず,指導教員が大学を辞職する形で元大学院生の指導教員から降りる旨を告げることは,元大学院生に対し労働組合からの脱退を強いることになると認められること等から,指導教員及び教授の元大学院生の労働組合活動に関する言動は,元大学院生の労働組合活動の自由を侵害するものであって違法というべきである。
大学のハラスメント相談室は,約2か月間,元大学院生の調査要請に対して適切な対応を取らなかったといわざるを得ず,大学ハラスメント防止ガイドラインに,「ハラスメントが発生した場合には,不当に人格を侵害された個人の権利を回復し,失われた信頼関係を取り戻すために必要なあらゆる措置を講じ,できる限りの救済を行うことは,本学としての責務である」と規定されていることをも併せ鑑みれば,大学のハラスメント相談室が約2か月間元大学院生の調査要請に対する適切な対応を取らなかったことは,元大学院生に対する債務不履行を構成すると解するのが相当である。
元大学院生の主張する損害(1)ア(生活費),イ(家電レンタル代)及びウ(家賃)損害については,いずれも上記の各不法行為によって生じた損害であるとは認められないが,他方,交通費については指導教員が平成26年5月5日段階で,元大学院生の指導教員を辞任する旨伝えたことにより,大学院生が支弁することになった費用であると認められる。そうすると,同損害は,上記によって生じた損害であると認められる。
上記の各不法行為の内容等からすると,元大学院生は,大学及び指導教員の行為によって,労働組合活動の中止を余儀なくされたこと,修士論文の完成が遅延する状況に立ち至ったことが認められ,これらの点に大学院生であった元大学院生の地位や大学院修士課程における修士論文の重要性等をも併せ鑑みれば,元大学院生は,大学及び指導教員の上記各不法行為によって,一定の精神的苦痛を被ったと認めるのが相当であるが,もっとも,クリニックのカルテの記載内容(アカハラが原因か不明とする内容)からすると,上記行為と元大学院生が最終的に修士論文を完成させられなかったこと及び本件大学院を退学したという結果との間に相当因果関係があるとまでは認め難いから,上記各不法行為に係る諸事情を総合的に勘案すると,元大学院生の精神的苦痛に対する慰謝料としては,60万円が相当である。