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大学教授らのハラスメントが不法行為に該当するとされた事例(令和1年12月24日那覇地裁)
概要
被告国立大学の設置する大学院医学研究科の講座の講師である原告が、同研究科の教授である被告A及び被告Bから違法な退職勧奨を含むいわゆるパワハラを受け、精神的損害を被ったと主張して、
(1)被告個人らに対しては、被告Aの不法行為(一部は被告Bとの共同不法行為)に基づき慰謝料等の支払を求め
(2)被告大学に対しては、主位的に被告個人らの使用者責任又は国家賠償法1条1項に基づき、予備的に信義則上の安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、慰謝料等の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
国立大学法人は,国家賠償法1条1項にいう公共団体に当たるというべきであり,また,国立大学法人の教員の教育・研究活動は,公権力の行使に該当するというべきであるから,公共団体の公権力の行使に当る公務員である国立大学法人の教員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,公共団体である国立大学法人がその被害者に対して同法1条1項に基づき賠償の責めに任ずべきものであり,また教員個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず,その使用者である国立大学法人も同法715条に基づく損害賠償責任を負うものではないから,講師の教授らに対する民法709条に基づく損害賠償請求及び大学に対する使用者責任に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない。
講師が,教授らから相当期間にわたって継続的に講師を退職誘導しようとするハラスメント行為を受け,その過程で実験サンプルの一部も失った精神的苦痛は大きいと考えられ,一方で,講師が心身に病的失調を来すまでの事態に至った形跡はうかがえないこと,講師の実験サンプルも一部失われたとはいえ,全廃棄は免れたことがうかがえ,その一部を失った被害の大きさを量る上でも,動物実験施設の受益者負担金額が年10万円弱程度のものであることも斟酌すべきものといえることなどに鑑みると,上記の一連のハラスメント行為による講師の精神的損害に対する慰謝料は80万円をもって相当と認める。
大学は,教授らによるハラスメント行為が日時・場所を異にする別個の不法行為であることを前提に,平成26年12月7日以前に行われた行為に基づく損害賠償債務について消滅時効を援用するが,講師に対するハラスメント行為は,講師を退職に誘導しようとする同一の意思に基づく一連の行為であるということができ,その終了時まで消滅時効期間が進行を開始することはないというべきであるから不法行為の終了の日から3年が経過していたと認めることはできず,大学の消滅時効の主張には理由がないから,講師の大学に対する主位的請求は,国家賠償法1条1項に基づき,前記慰謝料等の支払を求める限度で理由がある。