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新入社員の自殺につき会社と上司が連帯して責任を負うべきとした例①(平成25年6月25日仙台地裁)

概要

被告会社に勤務していた原告らの長男が、連日の長時間労働のほか、被告上司からの暴行や執拗な叱責、暴言などのいわゆるパワーハラスメントにより精神障害を発症し、自殺するに至ったと主張して、遺族である原告らが、被告会社に対しては安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告上司に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償を請求した。

結論

一部認容、一部棄却 →  控訴

判旨

上司の叱責の態様は厳しかったが,亡労働者が何らかの業務上のミスをしたときに限られ理由なく叱責することはなく,叱責する時間も5分ないし10分程度であったこと,また上司は全ての従業員に対して同様に業務上のミスがあれば叱責しており,亡労働者に対してのみ特に厳しく叱責していたものではなかったこと等にかんがみると,上司の亡労働者に対する叱責は,必ずしも適切であったとはいえないまでも,業務上の指導として許容される範囲を逸脱し,違法なものであったと評価することはできない。
亡労働者は,自殺5か月前から月100時間程度かそれを超える恒常的な長時間の時間外労働に従事していたことに加え,内容的にも肉体的・心理的負担を伴う業務に従事し続けたこと,さらには上司による叱責や新入社員としての緊張や不安が亡労働者の心理的負荷を増加させたことによって適応障害を発病し,午後出勤の前に飲酒をするという問題行動を起こし,これが上司らに知られたことにより,解雇の不安が増大し,それまでに蓄積した疲労と相まって,亡労働者は正常な認識,行為選択能力及び抑制力が著しく阻害された状態となり,自殺したものであることから,当該自殺と業務との間には相当因果関係がある。
会社又は上司は,亡労働者の自殺までに亡労働者の具体的な心身の変調を認識し,それに対応することが必ずしも容易でなかったとしても,亡労働者は,自殺5か月前から月100時間程度かそれを超える恒常的な長時間時間外労働に従事していたことに加え,その業務内容は肉体的に大きな負荷が掛かるものであり,会社に入社した途端このような過酷な労働にさらされ,かつ上司から日常的に叱責を受けていたことにより,過度の肉体的・心理的負担を伴う勤務状態において稼働していたのであって,会社及び上司は,かかる勤務状態が亡労働者の健康状態の悪化を招くことは容易に認識し得た。
会社は,新入社員である亡労働者を過重な長時間労働に従事させた上,上司からの日常的な叱責にさらされるままとし,過度の肉体的・心理的負担を伴う勤務状態に置いていたにもかかわらず,亡労働者の業務の負担や職場環境などに何らの配慮をすることなく,その長時間勤務等の状態を漫然と放置していたのであって,かかる会社の行為は,不法行為における過失(注意義務違反)を構成するものというべきである。
亡労働者の上司には会社における人員配置の権限があったとは認められないことや,会社の他の営業所においても長時間労働が常態化していたことからすれば,上司としては,会社に対して従業員の増員を要請し,その後も毎月の残業時間の報告によって従業員の長時間時間外労働が解消されていないことを会社に認識させていたことをもって上司の権限の範囲内で期待される相応の行為を行っていたと評価することができ,上司が注意義務に違反したとまでいうことはできない。
会社が亡労働者に対する安全配慮義務違反の不法行為に基づく損害賠償債務を負うことのほかに,上司が亡労働者に対して不法行為法上の責任を負うものと認めることはできない。

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