みなし時間制、不当な給与控除に基づく未払賃金等支払請求が認められた事案(令和4年7月8日大阪地裁)
概要
被告の従業員であった原告が、
(1)時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金
(2)不当な天引があったとして、雇用契約に基づく未払賃金
(3)労働基準法114条所定の付加金の支払を求めた。(ヨツバ117事件)
結論
認容
判旨
事業場外労働のみなし時間制の「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かについて,会社ではタイムカードの打刻が義務付けられており,元従業員は,タイムカードが残存する月以外の月についてもタイムカードを打刻していたことがうかがわれ,そして,タイムカードは打刻した時刻を客観的に記録するものであること,元従業員のタイムカードをみると,一部手書きの時刻もあるものの,おおむね出勤時刻及び退勤時刻が打刻されていることからすれば,会社とすれば,元従業員のタイムカードの打刻内容を確認することで,元従業員の労働時間を把握することが容易に可能であったということができること等から,本件における元従業員の業務が,「労働時間を算定し難いとき」に当たると認めることはできない。
付加金の支払義務の有無について,本件において事業場外労働のみなし時間制が適用されず,また,従業員が在職中に使用者に対して未払の割増賃金があるとしてその支払を請求することは必ずしも容易ではなく,以上のほか,会社の労務管理体制,会社の主張内容,本件訴訟の推移,本件における未払割増賃金の額等,本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,本件においては付加金の支払を命じるのが相当であり,その額は227万5853円とするのが相当である。
賃金からの天引の可否について,会社の主張を善解すれば,元従業員が業務控除(業務減費)名目で控除することを同意していた,あるいは控除相当額について賃金を放棄していた旨主張するものと解されるが,賃金は労働者の生活にかかわる重要なものであること,一般的に使用者と労働者の関係では使用者の方が優位な立場にあることなどに照らせば,賃金の放棄あるいは賃金から控除する同意が有効なものであるというためには,当該放棄あるいは同意が労働者の自由な意思に基づくものであることが必要であり,自由な意思に基づくものであるというためには,自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるところ,会社の主張を善解すれば,元従業員が車両管理規定に押印していること,在職中に控除に異議を唱えなかったことをもって,合理的な理由が客観的に存在することの証左であると主張しているものと解されるが,それらをもって,自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することの証左であると評価することができないことはいうまでもなく,ほかに,合理的な理由が客観的に存在したことを認めるに足りる証拠もないから,本件において,業務控除(業務減費)名目で控除することはできない。