4回目の爆発…イプシロンSロケット地上燃焼試験爆発にみる類似性…第二段TVCとカイロスロケット初号機
イプシロンSロケットは下記に示すような全段固体ロケットで、3段すべてに、TVCという推力ベクトル制御を持つものである。
一段は既存ロケットSRB(Hロケット用と同じ)が使用されており、二段目は、新たに開発中のものである。直径は、2.2mである。
打ち上げは、下写真のように発射台とアンビリカルケーブル(へそのお)で繋がれている。このアンビリカルケーブルは、搭載した人工衛星に電力を供給したり、信号を送るためである。
カイロスロケットはご存じの通り、同じ企業が設計・製作している。
カイロスロケットは、スペースワン社のHPから、かなりザクっとした紹介がある。右最下段には、『推力方向制御装置TVC』とあり、
『世界最高水準の軌道投入制度を実現』
と解説されている。
カイロスロケットの打ち上げ前は、下のようである。
若干、イプシロンロケットと異なるのは、衛星を搭載しているが、アンビリカルケーブルは存在しない。
小型の固体観測ロケットのように、打ち上げ時に発射台のレールに沿って初期加速し、姿勢をスピン安定し、するものでは無く、一段目の推力方向制御(TVC)によって、
・姿勢安定と軌道保持
を行うものである。
もちろん、この一段目・推力方向制御装置(TVC)は初めての飛翔であろう。このTVCは極めて重要で、これがうまく作動しなければ、ロケットの姿勢や飛翔方向にズレが生じて非常に危険である。思わぬ方向に飛べば、人的被害にも繋がる可能性があるので、制御不能と判断すれば、爆破しかない。
特に打ち上げ直後の制御は難しい。
初号機は、打ち上げ5秒後に自爆した。この原因についてスペース・ワン社は、
『高い推力が出るものとして飛行計画が立てられていたため、初号機の飛
行では予測よりも速度が数%程度遅くなってしまい、正常な範囲を逸
脱、自律飛行安全システムが作動した』
こんな打ち上げロケットの推力が不確定などという言い訳は聞いたことがない。ロケットメーカーとしてはあるまじき事故である。
なぜ推力が予想より小さかったのかについて同社は、
『事前の固体燃料サンプルの分析を元にした推力の予測よりも実際の第1
段ロケットの推力が数%不足していた』
ほぼ信じることは出来ない理由付けである。
固体ロケットを始めて打ち上げる会社ならいざ知らず、同社は、
『わが国を代表するロケット飛翔体の総合メーカーとして、固体燃料ロケ
ットの技術を応用し、科学観測や実用衛星打ち上げ用ロケットの開発を
行なうことにより、日本の宇宙開発の一部を担っております』
と述べている。
沿革も古く、かつての東大航空宇宙研究所以来、多くの固体ロケットを開発した実績を有している。
カイロスロケットについては、
『問題があったのは予測のプロセス側であって、推進剤そのものには問題
は無かったと見られている』
もちろん予測のプロセスというのは同社が予測するものであるので、
同社の予測技術に信頼性がない
…と白状しているのである。
では、順を追って説明しよう。
①固体ロケットの(燃料)サンプルによる予測が数%外れていた
②初号機の打ち上げでは、①が原因で打ち上げ直後に速度が数%不足
③2号機では、以下の対策で打ち上げが可能とした
品質管理や信頼性の観点から見ると、このような根拠や具体性に欠ける判断をする宇宙開発メーカーは世界を探してもどこも無いであろう…同社だけである。
すべて具体的・定量的な根拠も言わずに、
何が改善されたのかも不明だし、
・予測計算が間違っていたのか
・数%ととは、具体的何%だったのか
・サンプルに製造上のバラつきがあったのか
・上記の原因は何だったのか
などが一切不明である。
何やら宇宙開発を担う上での、資質が著しく欠落しているとしか思えない。
こんなことで、民間宇宙開発などと称するのは、おこがましい限りである。
恐らく民間ロケットということで、身内の審査プロセスしか持っていないので、すべてがどんぶりなのであろう。
ちなみにスペースワン社の主要株主は、以下のようである。宇宙開発の技術に関連する主要会社は1~2社であり、技術的ガバナンスは無理である。
キヤノン電子株式会社
株式会社IHIエアロスペース
清水建設株式会社
株式会社日本政策投資銀行
株式会社紀陽銀行
太陽工業株式会社
株式会社三菱UFJ銀行
株式会社オークワ
アズマハウス株式会社
合同会社K4 Ventures
さて、今回のイプシロンロケットs二段目燃焼試験爆発事故から、筆者が危惧するのは、次回のカイロスロケット2号機(12月)の打ち上げである。
打ち上げについて多く報道されているが、TVCが本当に機能するのか、注目である。