鏡の中のあなたへ

朝陽の中で鋭く光る、あなたの灰色のまなざしが好きでした。気高く、清潔で、臆病なあなたは、孤独を愛し、暗闇の中でこそ安らげる存在だと思っていたけれど、実は誰より淋しがり屋で、誰より他人を愛していたのかもしれません。ときどき聞こえるあなたの掠れた声は、人恋しさにすすり泣いていたせいなのでしょうか。

私はいつも、鏡を覗き込むような気持ちで、あなたの姿を追いかけていました。不器用で、少し癖っ毛のあなたに、どこか自分を重ね合わせていたのです。どんなに孤独が似合う人でも、ひとりぼっちが本当に好きな人なんて、きっと、いない。それは、私がいちばん分かっていたはずなのに。あなたは誰より強くて賢いから、心配なんていらないと、決めつけてしまっていたのです。

あなたはいつも、手を伸ばしてもすり抜ける、少し離れたところから、静かに私たちを見守ってくれていました。そんな心地よい共存に、いつしか甘えてしまっていたのでしょう。日々に溶け込んだ幸福を、当たり前で、永遠のものだと錯覚して、別れの足音に耳をふさいだまま、季節を過ごしてしまいました。そうして愚かな私は、あなたの涙の痕跡に、とうとう、気づけなかった。気づけないまま、永遠が、永遠でなかったことを、すべてが終わった今、ようやく知ったのです。

あの日、短い蝋燭が、私の部屋で灯った瞬間のことを、今でも忘れません。あの日からずっと、その小さな灯りが、私の心を照しつづけていてくれました。いまにも風に吹かれて消えてしまいそうな火を、必死で守った春。はじめからあなたは、儚かった。そう、儚いまま、奇跡のような毎日を乗り越えて、この部屋の片隅で、輝きつづけていただけなのです。あの日から今日まで、ずっと。だからこれは、まぶしさに慣れきった、私の罪。

あんなに明るいこの部屋に夜が訪れたのは、ほんの一瞬でした。にぎやかな宴の途中、偶然スイッチに肘がぶつかって、ぱちりと電気が消えるような、あまりにあっけない不自然でした。あざやかだった日曜日の風景を切り裂いて、その隙間から、みるみる真っ黒な絶望が広がっていきました。

せめてもの救いは、歓びに満ちたあなたの声が、まだ記憶に残っていること。数えきれない後悔の中でも、最後まで、あなたの絹のような優しさが私を温めてくれるのですね。だけどもう一度、もう一度だけでいいから、あなたのささやかな仕草を見て、笑い合いたかった……。今でも暗闇に目を細めると、二度と砂煙の立たない小さな校庭から、あなたの顔がそっと現れるような気がします。

——今頃どんな夢を見ていますか。どうか、私の傍で暮らしていたことなんて忘れるくらいに幸福な夢の中で、愛する人と寄り添いながら、今度こそ永遠に、生きていってください。


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