停車駅

 夜の中をひたすら走った。十二月の風を切って冷たい汗が流れた。踏切が点滅を始めて、音割れのした駅員の声が遠くホームにこだまする。駅舎からぞろぞろと湧き出てくる疲れた労働者達を避けながら、私は二番線に駆け下りた。ベンチに座り、マフラーを外した。汗も引かないままに電車が滑り込んでくる。脱いだ上着を左腕に抱えて、私はそれに乗り込んだ。
 車内はがらんどうですぐに座れた。シートの足元から加減の効かない暖房が吹きつけて私は余計に汗ばんだ。背凭れに任せてぼんやりと向かいの窓越しを眺めやる。星空の代わりにまばらなビルディングの整然とした灯りが見える。
 明るい夜だ。何もかも眩しい夜だ。あるいはこの街では夜の方が明るいのかもしれない。そんな私の哲学も、すぐに割り入って来るスピーカーの無表情なアナウンスに細切れにされて、もう溜息にしか聞こえない。
 窓硝子にはうっすらと自分の顔がうつっている。魂の抜けた人形のような眼をしている。そいつをじっと睨みつけてみる。知らないやつのようだった。よく知っているやつのようでもあった。それはやがて明るさに掻き消された。電車がまた次の駅に停まった。

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