季節の終りに

街に灯りが滲むころ、私は生ぬるい風を浴びながら自転車を走らせていた。雑踏を避け、信号を待ち、ふらついたり、ときどき手で自転車を押して歩いたりしながら、大きな駅を囲むビル群を抜ける。歩道と車道を行き来しながら、彼岸と此岸との境で眠るあの子のことを考えていた。このままどこまでも行けそうな気がしたが、そんな気分の夜にかぎって、少しだけ遠回りするくらいがちょうどいいだろう。

菜の花の伸びきった河原を横目に、古いランドリーを過ぎれば、もうネオンも人々も見えなくなった。辺りは深い海の底に沈んでいるみたいに青く染まっている。空の果てに燃えさしのような夕暮れの名残が幽かに見えるばかりだ。

何台もの車に追い抜かれながら、急な坂道を登りつづける。前をゆく女生徒の背中に、追いつけそうで追いつけない。帆のようにスカートをはためかせて、彼女はしなやかに自転車を漕ぎつづける。青春が遠ざかってゆく。

やがて坂道を登りきったとき、首元に浮かんだ汗を夜風が攫っていかないのが、もう夏の合図みたいだった。うれしくて、思わず微笑んでしまう。丘の上の、窓の大きなあの家まで、あと少しだ。愛する季節を抱きとめるように、私は青い闇の中、また走りはじめる。


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