介護士時代の思い出・特養編
天寿を全うする命はキャンドルの火のように、ゆっくり、静かに、消えていく。
過去、施設を変えながらも10年近く介護士として働いていた。実は介護福祉士も持っている。すごい!
初めて勤めたのは特別養護老人ホームで、一番長く勤めていた。
他、デイサービスとグループホームへ勤めたが、特養が一番印象に残っている。どの施設でも断られた方を受け入れる事・介護士の指導が厳しい施設と地元では少し有名で、看取りまでご一緒させていただく施設だった。面接受けた後で知った。
たくさんの方をお見送りさせていただいた。
利用者さん方は命を賭けて、生意気で無知な私にたくさん学びを与えてくれた。死を思うことは生を思うことだ。私のここまでの考え方に、大きな影響とキッカケを頂いた。
私とはあまり話してくださらない利用者さんがいた。身寄りが無く、措置として入所された。
先輩はその方と楽しそうに話をしていたので、相談した。「TVの話題振ると話してくれるよ」と教えてくれた。なんてこったい、私は自分の話ばかりしていた。まずは私のことを知ってもらえれば、信頼してもらえるかなと思ったのだ。色々ズレている。
早速その日、大河ドラマを観る利用者さんへ「黒田官兵衛!面白いですよね」と話すと「あなた、知ってるの?戦国も面白いわよね」と表情が明るくなった。ありがとう先輩。勘違いしていたコミュニケーション方法を修正できた。
その後もちょくちょく、大河ドラマを中心に話していると、「明日も来るの?」と尋ねられるようになった。明日はお休みなんですと返すと「そう、また来てね」と言ってくれた。そんなふうに思っていただけるようになれてとても嬉しかった。
月日は流れ、容態が悪化された。
「ちょっと、まずそうだよ。ここ代わるから会いに行ってきなよ」と同僚に勧められ、静養室へ行く。ナースステーションと通じているそこは、いつなにがあってもすぐに対応できる場所だった。
その方はひとり、呼吸していた。もう目も開かず、話すこともできない。
手を握り、額を撫でる。自然にそうしてしまった。少しでも人のぬくもりを感じてほしかったのかもしれない。もちろん、何も反応は無い。
「おつかれさまでした。ありがとう。」
口をついてそう出てしまった。
まだ息をしているのに、何か縁起でも無いようなことを言ってしまった気がする。と思った瞬間、
ゆっくり、静かに、呼吸は止まった。
時刻を確認し、看護師さんを呼ぶ。妙に自分が冷静だったことを覚えている。
対して「え〜?!うそ〜!!」と慌てて駆けつける看護師さんは介護士の中で「ナースのお仕事」と呼ばれていた。主人公の朝倉レベルでドジッ子だったから。
その後、葬儀がどうなったのかは実は思い出せない。退勤後、泣き崩れてしまったので記憶が抜けてしまっている。
あの時、心の内が言葉という結晶になってこぼれ落ちた感覚だった。
言えてよかった。耳は最期まで聞こえているという説がある。最期に感謝で見送れた。それが私で良かったのかはわからないが、きっと良かったと思う。根拠も無いし、証明もできないけれど。
これは私の人生で最も光栄だった出来事の一つだ。
キャンドルを灯す。ゆっくり、静かで、時が止まっているように感じるのに、いつか必ず燃え尽きる。ぬくもりを残して。