
不二家のハートチョコレートが好き!
子どもの頃から、私は不二家のハートチョコレートが好きでした。
ミルクの甘さ、ところどころのピーナッツの食感、赤くてハートの形。
小学生のお小遣いでも買える値段。私の小学生の頃は30円でした。
小学生の手のひらと同じくらいの大きさで、食べる時は割って食べていました。
結婚しても、子どもが育っても、スーパーの棚に並んでいるのを見ると、子どもの時の思い出を辿るように、知らず知らず手が伸びる特別な物だった気がします。
その中でも忘れられない思い出。
もう十年以上前、私が学童の指導員をしていた時のことです。
利用者の中に、発達特性のある高学年の男の子がいました。
絵が好きで、自分でストーリーを話しながら、一人でこだわりの絵を描いては楽しんでいました。
時間をかけて細かくびっしりと描き込んだ絵の中に出てくる人は、いつも優しい表情をしていました。
お母さんの職場が遠いので、終わりギリギリのお迎えでした。
子どもも時間が遅くなると、指導員や友達にくっついてきたり、話しかけることが多くなったりします。
子どもなりに寂しさを紛らわしたいのかも知れません。
周りの子どもに話しかけられても、彼は一向気にかけず、ひたすら自分のストーリーを話し、絵を描き続けます。
無視されたと思った子どもと彼との間で、トラブルになることもありました。
どちらにも彼らなりの正義があるのに、彼は発達特性ゆえに誤解され、
やり切れない思いで涙する事もありました。
そんなことから、お母さんが遅くなりそうな時には、彼が絵を描くのを邪魔されないように、そして、他の子もそれぞれの楽しいことができるように、指導員みんなで見守ろうね、と話し合いました。
2月14日。
その日もお母さんは駅から走って迎えに来ました。
私たちはもう彼を見送ったらすぐ帰れるようにしてあります。
7時ぎりぎり、お母さんがドアから飛び込んできました。
「遅くなってすみません!」
「おかえりなさい!」
肩で息をしながら、少し照れ臭そうに、小さな包みを差し出しながら
「いつも、ありがとうございます」
そこには、スタッフの人数分だけのハートチョコレートが入っていました。
「いつも、いつも、息子のこと、ありがとうございます。おかげで私も仕事ができます。」
いえいえ、それが私たちの仕事です。
みんな誰かに支えられ、誰かを支え、支え合っているのです。
お母さんと心が通じた気がしました。
その時のハートチョコレートは、今までで最高の、格別の味でした。
あの時、自分のストーリーと絵にこだわっていた彼は、もう大人になっているはずです。
きっとその特性ゆえに辛い思いもしてきたことでしょう。
今はどこで何をしているのか。知る術もありませんが、きっとあのお母さんと一緒なら、幸せでいるに違いないと思います。
時が経ち、ハートチョコレートは小さくなったけれど、それでも私は大好きです。
バレンタインデー、私の忘れられない思い出です。