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「幻の愛知県博物館」と「コレクション展」 愛知県美術館 レポート

愛知県美術館では「幻の愛知県博物館」展を開催しています。明治になり近代諸制度が作られる中で多様な可能性があったものの忘れられた「博物館」が愛知にありました。豊富な資料を展示しありえた可能性を考察します。8月27日まで。


現在愛知県には、県立の総合博物館がありません。けれども明治時代に遡ると、この地に「愛知県博物館」は確かに存在していました。1878(明治11)年に県が民間からの寄附金を集めて建てた博物館は、古く貴重な文物から味噌や醤油、酒、木材、織物、陶磁器、絵画、機械、動植物等々、国内外のあらゆる物産を集め、人々の知識を増やして技術の発展を促そうとしました。まだまだ博物館をどういう施設にすべきか方向の定まらぬ時代に、同館は先進的な商品見本を展示・販売して県下の産業を刺激する商品陳列館へと、徐々に姿を変えていきます。日本各地に博物館や美術館が建設されるなかでいつの間にか忘れられてしまった、殖産興業に比重を置く総合的な産業技術博物館としての「愛知県博物館」へ、時空を超えてみなさんをお招きします。

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1章 旅する金鯱

博物館のオープン記念博覧会で来場者を出迎えたのは、「無用の長物」として名古屋城天守から降ろされた金鯱でした。世界を旅した金鯱とともに、陸軍省から宮内省、そして名古屋市へと受け継がれ国宝に指定された名古屋城自体の歴史を追いかけながら、激動の時代の文化財と博物館を考えます。

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入口には、金のしゃちほこ。

といっても張りぼて。本展、一番のフォトスポットですね。
金のしゃちほこは明治以降は無用になったと思いきや、博覧会出品で巡回した各地では好評で地元愛知では象徴的存在であったことから保存活動が起こります。美術館という場に金のしゃちほこが鎮座していることが面白いですが、展示鑑賞後に改めて見るともしかしたらこのような世界線もあったのかなと思ったりします。


明治になってもビジュアルメディアとして使われた浮世絵版画には愛知の象徴的存在として名古屋城が描かれています。


戦前に名古屋で行われた博覧会を絵葉書で振り返ります。象徴的に金のしゃちほこが使われるものの、建築はモダニズムで面白いです。



戦中の国防ポスター。内容は戦争プロパガンダですがビジュアルがモダニズムで興味深く、象徴に愛知らしく名古屋城が使われています。その後、空襲被災で焼失することを知っているといろいろ考えさせられますね。
また防空演習ポスターでガスマスクをする一行はなかなか強烈で戦後のゼロ次元の行進、あるいは大友克洋の「大砲の街」を想起させます。



戦争をモチーフにしたノリタケの陶磁器。奥には鴨居玲《昭和20年5月14日Nagoya(天守閣の燃えた日)》(1985)



空襲で焼け落ちた名古屋城の金のしゃちほこ。その破損した金のプレートや、再生させた茶釜など。



2章 幻の愛知県博物館

1878(明治11)年に名古屋・大須に誕生した博物館は、5年後に愛知県博物館と改称して県立の博物館となり、その後も愛知県商品陳列館、愛知県商品陳列所、愛知県商工館と、名を変えながら活動を続けました。貴重な文物を守り、手本となる商品を世界中から集め、美術家たちに展示場所を提供する、そんな多種多様な博物館活動を、当時の資料を交えながらご紹介します。

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愛知博物館の様子


愛知県商品陳列館


博物館や商品陳列館はあったものの「美術」を専門とする美術館がなかったため、美術家からその設立が要望されていたようです。



額田郡の物産陳列所や愛知県立明倫中学校附属の博物館について紹介。後者は私設として多くの標本を蒐集してきましたが、資料はその後、学習院へ移されました。



3章 ものづくり愛知の力

古代から現在まで無数の産業が生まれ発展してきた、ここ愛知県。明治時代から昭和時代初期にかけて愛知県博物館が収集した殖産興業のための資料のほとんどは、戦後引き継がれることなく失われてしまいました。総合的な産業技術博物館としてありえたかもしれない幻の愛知県博物館の目を通して、弥生時代の木製品から現代の化粧品原料まで、ものづくり愛知の力を見つめ直します。

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朝日遺跡から出土した円形窓付土器(中央)とさまざまな木製品など。交流の結節点として様々なものが集まり作られていたことが推測されます。



江戸の寿司文化を変えたミツカン酢。輸送容器は木製樽から陶製の壺へ変わります。衛生面を理由にした変化でしたが、解体できず重量があり使い勝手は木製樽のほうが良かった可能性があるとのこと。



陶磁による食器や彫刻など売れる陶磁器開発のため集められた海外陶磁器など。多くが国立研究開発法人産業技術総合研究所の前身である陶磁器研究機関によって集められたもの。



盛んだった紡績業の資料として、繭の標本など。



多くの資料を集め展示した会場はあたかも博物館のようでした。明治に入り西欧化を進め諸制度を作る中だったからこそ、多様な可能性のあった博物館が生まれたのですが、徐々に制度が整備され分化し高度に専門化されその一つが現在の美術館となる一方で、忘れ去られていったものもあります。本展では博物館をシミュレーションするような展示をすることで忘れられた歴史を掘り起こす一方、制度が相対的なこと指摘しているように見え、美術館は美術に純化した場所というより実は様々な可能性を秘めた場所であることを示していたように思います。

そういえば本展では名古屋城が愛知の象徴として使われてますが、肌感覚的には名古屋城は名古屋って感じがしますね…(名古屋ぽいどうでもいい話…)。

来場記念カードを毎日先着順でプレゼント中です。
本展図録は後日リリースされるとのこと。予約受付中。


記者発表会で解説をする本展企画者の副田一穂主任学芸員。




同時開催
2023年度第2期コレクション展


左端は坂本夏子、正対する先には岡﨑乾二郎の作品



坂本夏子《Painters》2009年



左から杉浦邦恵、フランツ・ゲルチュ、アンディ・ウォーホルの作品



左から上田薫、THE COPY TRAVELERS、奥にグスタフ・クリムト、山田純嗣



左から荒川修作、本山ゆかり、パウル・クレー、ジョルジュ・ブラック、青野文昭



本山ゆかり《画用紙(柔道_左)》《画用紙(柔道_右)》2016年



ブラックとピカソ キュビスムと「秩序への回帰」

本年度新たに受贈した、ジョルジュ・ブラック《水浴する女性と3つの果実》を初公開。ブラックとピカソを中心に、第一次大戦前のキュビスムから、戦後の「秩序への回帰」と呼ばれる古典的傾向への変化を紹介します。


モーリス・ドニ、ジョルジュ・ブラック、アンリ・マティス



木村定三コレクション フォロンとグラフィック・アート

灘本唯人、和田誠


野田弘志《和香子(加賀乙彦『湿原』挿絵原画)》(1983)、《ローソク(加賀乙彦『湿原』挿絵原画)》(1983)



三田村光土里 グリーン・オン・ザ・マウンテン

偶然手に入れたネガフィルムに記録されていた、見知らぬ家族の写真から展開するインスタレーション作品、三田村光土里《グリーン・オン・ザ・マウンテン》を愛知県で初公開します。

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コレクション展では新規収蔵したジョルジュ・ブラックの絵画(篤志家から受贈、評価額5億円)と、三田村光土里の「グリーン・オン・ザ・マウンテン」が大きく特集をされています。三田村作品は真骨頂ともいえるインスタレーションが体験できるので必見です。
作風の変遷を厭わない坂本夏子の初期の傑作も見れますね。
そして木村定三コレクションは古美術というイメージが強かったのですが、今回は打って変わりイラストレーションなどに使用された絵画を展示し、コレクションの幅の広さを見せていました。




概要

幻の愛知県博物館
2023年6月30日(金)- 8月27日(日)[51日間]
開館時間| 10:00-18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日| 毎週月曜日(7月17日[月・祝]は開館)、7月18日(火)
会 場| 愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000403.html


2023年度第2期コレクション展
会期| 2023年6月30日(金)-9月17日(日)
会 場|愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
開館時間|10:00~18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日|毎週月曜日(7月17日[月・祝]は開館)、7月18日(火)
※8月27日(日)までは企画展「幻の愛知県博物館」との併催、8月29日(火)からはコレクション展のみ。
「幻の愛知県博物館」展会期中は、同展チケットで本コレクション展も観賞可能。
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000405.html



画像はプレス向け内覧会で撮影したものです。無断転載禁止です。

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