16日(土)から、ジャン・プルーヴェの業績を紹介する展覧会が東京都現代美術館で開かれている。工業デザイナー、建築家として20世紀フランスを代表する巨匠の仕事を、代名詞でもある「スタンダードチェア」をはじめとする家具や「組立式住宅」の展示に留まらず、スケッチ、設計図面、記録映像などで網羅した。規模としては国内で過去最大級となり、2016年に現代芸術振興財団が主催し、東京・広尾のフランス大使公邸で開かれた『the CONSTRUCTOR ジャン・プルーヴェ:組立と解体のデザイン』を超える。今回も主催には現代芸術振興財団が名を連ねており、会長の前澤友作氏が保持するコレクション複数、特に2016年も注目を集めた世界に2点しか現存しないとされている組立住宅「F 8x8 BCC組立式住宅」がハイライトの一つとして展示されている。過去に例のない質量共に充実した内容で、ファンやコレクターのみならず、プロダクト・デザインや建築に関心がある人にとっては必見だ。
以下、15日に開かれたプレス内覧会で撮影を許可された作品を紹介し、レポートに代えたい。
プルーヴェを代表する「椅子」は、7章構成の2章で展示され、その変遷を追えるよう構成が考えられていた。写真の「S.A.M」テーブル No.506、シテ(本棚)、「ゲリドン・カフェテリア」組立式テーブル(キャプション参照)は前澤のコレクションから貸し出されたものだ。前澤は自宅に招いた友人たちが自身のコレクションを見て、「こんな学校にあるような椅子のどこがいいの」とよく聞かれるのだとプレスレクチャーで述べていた。確かに美術館であからさまに「格好良く」展示されているのでもなければ、一見プルーヴェの椅子は「映え」ないのかもしれない。けれども、結局、帰り際には友人たちもみな魅了されていたというように、プルーヴェのデザインが持つ美しさの本質はもっと、遥かに奥深いものだ。大量に並べられた椅子は、無言でそれを物語っている。
前半のハイライトが2章の「椅子」なら、後半のハイライトはプルーヴェの建築家ならぬ「構築家」(constructeur)としての面にフォーカスした7章「組立・解体可能な建築と建築部材」だろう。アルミニウム、鋼鉄といった安価な素材を活かしたファサード(正面外観)とポルティーク(構造体)を分離させた「メトロポール」住宅(プロトタイプ)や、モックアップと共に解体した部材をアトリウム空間の壁面に並べた「6×6組立式住宅」は、さながら巨大な抽象彫刻かインスタレーションを思わせる端正な美しさをみせていた。
「6×6組立式住宅」を背に、アトリウムの中心に建てられたピエール・ジャンヌレとの協働作《F 8x8 BCC組立式住宅》は前述のように前澤のコレクションであり、レクチャーでも「外から光が指す時間が一番きれいなんです。今日はあいにく雨だけど、みなさん是非光が入る日にまた来てください」とコレクションの魅力を熱心にアピールしていた。
プレスレクチャーを終えた後、企画を担当したパトリック・セガン、八木保、そして前澤友作とのフォトセッションが設けられた。今や宇宙にまで行ってしまったアート愛好家にして有名企業家の佇まいは、その服装も含めてどこか少年のようで、「お金配りおじさん」などの独特な言語センスも「この人なら」と納得するものがあった。あまりにも余談だが、印象的な瞬間として最後に記しておきたい。
取材・撮影・執筆 : 東間 嶺
会期:2022年7月16日(土)- 10月16日(日)
休館日:月曜日(7月18日、9月19日、10月10日は開館)、7月19日、9月20日、10月11日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/地下2F
観覧料:一般 2,000円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1,300円 / 中高生 800円 / 小学生以下無料
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、公益財団法人現代芸術振興財団
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ブルームバーグ L.P.
協力:ヤマト運輸
企画:パトリック・セガン(Galerie Patrick Seguin)、八木保(Tamotsu Yagi Design)
学術協力:岩岡竜夫(東京理科大学)
展覧会カタログ
『ジャン・プルーヴェ 椅子から建築まで』
"Jean Prouvé Constructive Imagination"
ジャン・プルーヴェがつくった数多くの家具・建築の写真や図面、アーカイブ資料を収録。
デザイン:八木保(本展共同企画者)
解説:ジュリエット・キンチン(元ニューヨーク近代美術館キュレーター)
寄稿:早間玲子 田村奈穂 八木保 金田充弘
撮影:高野ユリカ 坂本理 他
判型:縦270mm×横222mm×厚さ18mm
頁数:232ページ
テキスト:日本語/英語
発行:millegraph
共同発行:Galerie Patrick Seguin
本体価格:2,800円
※2022年8月下旬以降刊行予定
関連イベント
■ギャラリートーク
8月6日(土)、8月31日(水)、9月25日(日) 各日11時より
会場:ジャン・プルーヴェ展展示室内
■シンポジウム「ジャン・プルーヴェから学ぶべきこと」(満席)
開催日:7月24日(日)
時間: 13:00~
会場:東京都現代美術館 地下2階 講堂
出演(五十音順):石田 潤(建築家、リンク建築設計工房主宰)、岩岡竜夫(東京理科大学教授、本展学術協力)、金野千恵(建築家、t e c o 主宰、京都工芸繊維大学特任准教授)、マニュエル・タルディッツ(建築家、明治大学特任教授)、山名善之(建築家 / 美術史家 東京理科大学教授)、横尾 真(構造家、シンガポール国立大学客員上級研究員 / 東京理科大学客員准教授)
■八木保×NIGO®×片山正通(Wonderwall®)『ジャン・プルーヴェ展』トークイベント(受付終了)
開催日:7月30日(土)
時間:11:00〜12:00(10:40〜受付開始)
会場:東京都現代美術館
企画協力:東京都現代美術館
https://casabrutus.com/casaid/306890
同時開催
MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2022/
MOTコレクション コレクションを巻き戻す 2nd
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-220716/
東間 嶺
美術家、非正規労働者、施設管理者。
1982年東京生まれ。多摩美術大学大学院在学中に小説を書き始めたが、2011年の震災を機に、イメージと言葉の融合的表現を思考/志向しはじめ、以降シャシン(Photo)とヒヒョー(Critic)とショーセツ(Novel)のmelting pot的な表現を探求/制作している。2012年4月、WEB批評空間『エン-ソフ/En-Soph』を立ち上げ、以後、編集管理人。2021年3月、町田の外れにアーティスト・ラン・スペース『ナミイタ-Nami Ita』をオープンし、ディレクター/管理人。2021年9月、「引込線│Hikikomisen Platform」立ち上げメンバー。
近年の主な展示、ブックフェア、寄稿、企画、撮影
2022 企画:藤巻瞬『不完全な修復』、前田梨那『去来するイメージ/往還する痕跡』ナミイタ(東京)
2022 寄稿:「わたしのわたしのわたしの、あなた」Witchenkare vol.12
2021 撮影:「人工知能美学芸術展 美意識のハードプロブレム」アンフォルメル中川村美術館他(長野)
2021 企画:大村益三「"RESTORATION" 1983-2021」、山本麻世「イエティのまつ毛」ナミイタ(東京)
2020 《引込線/放射線:Satellite Final, or…》higure1715cas(東京)
2019 〈引込線/放射線〉第19北斗ビル、旧市立所沢幼稚園(所沢)
2018 吉川陽一郎+東間嶺+藤村克裕『路地ト人/路地二人々』路地と人(東京)
2018 吉川陽一郎×東間嶺『WALK on The Edge of Sense』」Art Center Ongoing(東京)
2017 「コウイとバショのキオク---吉川陽一郎」路地と人(東京)
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レビューとレポート