
【モノ語り掌編#7】照らす私は陰の中――シーリングライト――
【モノ語り】
財布や本棚、コーヒーカップたちが語る、所有者の日常。
モノの視点で語るのは、ちょっと愉快で、あたたかな世界。
この部屋の所有者に彼女ができてからおよそ一か月ほどたち、少しずつ新しいモノが増えてきた。ソファの上に置かれたクッションや可愛らしいマグカップ。この部屋で前から仕事をしていた者たちは、その競合の登場に戦々恐々としていた。
一方、恐れられていた新参者もまた、新たな環境に馴染めるのかどうか不安がっている様子であたりを伺っている。
そんな様子を見て、所有者と出会っておよそ十年がたつコーヒーカップが口を開いた。
「可愛い柄ね。あなたは私よりたくさんコーヒーを入れられそうね」
マグカップの表情がパッと明るくなる。
「はい……! ありがとうございます。いろんな動物のシルエットが走っている感じがとっても好きで」
はきはきとしゃべるマグカップに、可愛らしさと恐怖を感じたようだ。おそらく期待の大型新人を教育するときのそれで、コーヒーカップは悟られまいと笑顔を取り繕うのに必死に見えた。
とはいえ、家具や小物は、年季が入れば入るほど懐が深い。八年になる革の財布、コーヒーカップは家や所有者について丁寧に教えていた。所有者がモノを大切にする性格で物持ちがいいということを、身をもって学んでいる。
私にはそれができない。寿命みたいなものがあるし、引っ越しをしたらたいていは捨てられるかその部屋に取り残される。
こうして部屋全体を照らしているけれど、一方で私のほうには誰も意識を向けてくれない。どれだけ頑張っていても、私はいつも陰にいる。
パチッと体に電気が走り今日も私は白く光る。恋人ができた彼らはよほど浮かれているのか、毎週ここで過ごしている。新しいマグカップは彼女の手に渡り、コーヒーカップはいつもと同じように所有者が持つ。
その事実にコーヒーカップがほっと胸をなでおろす。とても幸せそうだ。
「それにしても、家具とか小物とか、結構こだわってるよね。なんかお洒落」
彼女がいうと、家具たちが一斉に照れだす。それと同じく所有者が口を開いた。
「物持ちはいいよね。このコップだってもう十年くらいかな。それなりに気に入ってるよ、どれも」
そういいながら彼は上を見上げ、私と目を合わせた。
「意外と気に入ってるのがこのシーリングライトなんだよ。調光機能は他と変わらないけどさ、このデザインよ。普通に見えて、ラインが扇状に広がっているのがかっこよくて」
コーヒーを飲みながら続けた。
「あとあっち、控えの本棚ね。今読んでない本を置いてるんだけど、大きくて気に入ってるんだよ。本を取りに行く時なんか、その大きさでテンション上がる」
不意に向けられた目線にそわそわする。とんだ家具たらしだ。