
【モノ語り掌編#1】不釣り合い ―革の長財布―
スマホがあれば十分なんて、人にはいつも言うくせに、
支払う時はいつも私を持ち出して
終わればさっとカバンにしまう。
そんなに言うなら、私なんかとっとと捨ててよ。
手入れが雑なせいで、ヒビ割れも始まっているのに。
スマホなら、私よりもずっと手軽で便利なのよ。
それはあなたがよく知っているでしょ。
私が聞いてないとでも思っているの?
スマホがあれば、財布なんていらないよ
どうして人に勧めるのに、あなたはスマホで払わないの?
もしかして現金派?
それならこんな年増より、もっと高い革を使った
上品な財布に変えればいいのよ。
だけど俺はこの財布使っちゃうんだよ
何なの、その憎たらしい笑みは。
かわいいとか思っちゃう私がいや。
もう八年
革だからって私を使い続けるよりも、
あなたにはもっとふさわしい子がいるわ。
だんだんと抱えるお金の数も増えてきて、不釣り合い。
もう一つ、ランクの上の子がいるわ。そうしなさい。
……。
なんで私をなでるのよ。
……。
……。
わかったわ。
あなたがそのことに気付くまで、そばにいるわよ。
しょうがない。