走れひやむぎ【廉価版】
ひやむぎは激怒した。
禊です。
というわけで今回は怒り狂うひやむぎさんのエピソードを一つ、ご紹介したいと思います。
なお、この記事は廉価版です。
ひやむぎさん執筆の特装版「走れひやむぎ」はこちらから。
全てはサイゼリヤから始まった
全国チェーンのイタリアンワイン&カフェレストラン「サイゼリヤ」。
先日の私達のお昼ご飯はサイゼだった。
私とひやむぎさんにはいつも行くサイゼがあるのだけれど、この日は別の用事もあったことでいつも行くサイゼとは違うサイゼに向かったのだ。
ちなみにこの日頼んだものは以下の通り。
「コーンクリームスープ」
「柔らか青豆のサラダ」
「ペコリーノ・ロマーノ」
「エスカルゴのオーブン焼き」
「プチフォッカ」
「煉獄のたまご」
「イタリアンハンバーグ」
「自家製ケチャップソースのナポリタン」
食後
「ティラミス クラシコ」
「トリフアイスクリーム」
この10品だ。
頼みすぎだろとかそういうお言葉は、有難く無視しておくことにする。
提供待ちの時間は何を話すか
サイゼは記入注文式だ。
専用の用紙に注文を記入して、それを店員さんに渡すと確認してくれる。
呼び出しボタンを押して待つこと5分。
誰も来ないどころか、手ぶらの店員さんがテーブルの横を素通りしていくではないか。
仕方なく2回目のボタンを押すが店員さんが通り過ぎることさえなく、呼び出しの席番号がモニターから消えた。
そして3回目を押した直後に店員さんが注文を取りに来てくれた。
そんなこんなで既に注文時に一悶着あったが、ちょっとした笑い話程度に話しながらもはや雑談に花を咲かせていた、この時点では。
そして10分が経過しようという頃。
注文した料理は1品たりとも来なかった。
余談だが、私はサイゼでは提供してほしい順番で記入することにしている。
今回の場合は「スープ→サラダ→ペコリーノ→エスカルゴ→プチフォッカ→煉獄たまご→ハンバーグ→ナポリタン→デザート類」の順番で記入していた。
お店側からしたらスープやサラダなどは居酒屋のお通しレベルで出しやすいし、私からしても最初に来てくれた方が助かる。
作る順番と綺麗に噛み合っているのか、もしくは注文表の記入通りに提供するようになっているのかは定かではないが、家から最寄りのサイゼや私とひやむぎさんが通っているサイゼでは大体注文表の順番通りに提供してくれるのだ。
余程混んでいる時間帯でもない限り、注文から3分ほどでスープやサラダにありついている状態だ。
それが今回はどうしたのか。
10分経過しても一向に運ばれてくる気配がない。
心なしかひやむぎさんの表情が時折無になる。
そう。福岡はうどん屋やラーメン屋などが多い。
つまり、注文をしてからそこまで長く待たされることに慣れていないのだ。
これはいけない。
料理の提供が遅いなんて、私にはどうしようもない理由で不機嫌になられてみろ。
私が気まずいじゃないか。
私は無い頭を必死に回して、なるべく会話が途切れないようにメタルストーム(1分で100万発近くの連射を可能にした、世界一連射性能に優れているオートマチック散弾銃)並に話し続けてさらに10分が経過。
明らかに表情筋が死滅に近づいているひやむぎさんを相手に、私の話術で間を持たせるのも限界になってきた。
頼む、何でも良いから早く来てくれ。
そんなことを考えながら注文から20分が経過した頃、ようやく最初の品が運ばれてきた。
最初は大体スープとサラダ
前述した通り、大体の飲食店で最初に運ばれてくるのはスープやサラダだろう。
それは何故か。温めてちょちょいと盛り付けるだけで済むスープやサラダは、居酒屋のお通しレベルに提供しやすい商品だからだ。
私達のテーブルへ最初に運ばれてきたのは、「エスカルゴのオーブン焼き」と「煉獄のたまご」だった。
なんでや。
サラダやスープの方が提供しやすくないか?
そんなことを思いつつも、恐る恐るひやむぎさんの方をチラ見してみる。
無表情で料理を見つめるひやむぎさんの姿が、そこにはあった。
純粋なる恐怖。
とりあえず来てしまったものは仕方がない。
プチフォッカと一緒に食べる予定のエスカルゴのオーブン焼きを端に寄せて二人で煉獄のたまごをつついていたら、スープとサラダがようやく運ばれてきた。
そしてスープとサラダを食べ終わるのを待つこともなく、イタリアンハンバーグが運ばれてくる。
最初の品が提供されてから、まるで思い出したかのように次々と運ばれてくる。
なお、私は食べるのが遅い。
つまり、この時点でサラダも食べ終わっていなかったのだ。
運ばれてきたエスカルゴのオーブン焼きを、まだ熱が残るうちに食べようなんてことは早々に諦めて食べ進めていた。
どうせひやむぎさんが頼んだナポリタンもすぐに来るだろうし。
そんなことを考えていたら、また料理の提供はピッタリと止まった。
食べられない人の前で自分だけ食べるのは、もはや拷問
目の前に何も置かれていないテーブルを見つめる空腹のひやむぎさんを目の前にして食べる青豆のサラダ。
もはや味はしなかった。
どういう顔で食べ進めていいのか分からない。
私もう無理だよパピー。
味がしない、気まずさもハンパない、目の前には不機嫌なひやむぎさん。
いくら待つのに慣れていないとはいえ、ひやむぎさんはそこまで気が短い方ではない。
同棲して7ヶ月経っていながら、不機嫌なひやむぎさんなどそう見たことがないんだ。
不機嫌なひやむぎさんへの対応は、恐らくひやむぎさんの職場の人達の方が心得ている。
ちまちまとハンバーグを頬張っていると、ようやくナポリタンが運ばれてきた。
これでようやくひやむぎさんもご飯にありつける。
まるで自分のことのように喜ぶ私だったが、ふとテーブルの端に寄せていたエスカルゴのオーブン焼きが目に留まる。
最初こそオリーブオイルが沸騰していて、そのまま食べた暁には口内の皮が溶けて皮膚が爛れるであろうエスカルゴのオーブン焼きは、もはや湯気を立たせることすら諦めていた。
エスカルゴのオーブン焼きとプチフォッカのセットはおすすめ
サイゼのメニュー表には、エスカルゴのオーブン焼きの写真の横に、プチフォッカの半分の個数のセットプチフォッカが並んで載っている。
一緒に食べるのがサイゼのおすすめなのだろう。
となれば、一番美味しい状態で食べてもらってこそのおすすめだと言えるはずだ。
注文待ちから20分、最初の注文が運ばれてきてから15分ほどが経っても一向に運ばれてくる気配のないプチフォッカ。
もはや忘れられているのではなかろうか。
それまで黙って耐えていたひやむぎさんが、ついに通りがかった店員さんに声を掛ける。
店員さんはそれだけを答えて去っていったが、5分後に別の店員さんが私達のテーブルへとやってきた。
私はサイゼに行くたびにエスカルゴのオーブン焼きとセットでプチフォッカを必ず頼むのだが、必ずエスカルゴのオーブン焼きとセットで提供してくれていた。
そもそも、プチフォッカって温めるだけとかではないのだろうか?
そんなことを思いながら私は店員さんに短い返事を返した。
ひやむぎさんの顔色を窺うことはしなかった。
いや、正確にはしなかったのではなく、できなかったのだ。
だって怖いもん。
テーブルの隅に追われるようにして寄せられたエスカルゴのオーブン焼き。
それを見た店員さんは「温め直しましょうか?」と聞いてくれる。
私が答えるよりも早く、店員さんが言い終わるよりも早く、ひやむぎさんが「お願いします」と言った。
タイミングは「温め直しましょうか?」の「ま」を発音しかけたくらいのタイミングだ。
食い気味も食い気味。
基本的にゆるっとしていて、マイペースという言葉が似合うひやむぎさん。
そんなひやむぎさんの返答がここまで早いことがあろうか。
「お弁当に入れる卵焼きは、しらすと刻みねぎの卵焼きか明太卵焼き、どっちがいい?」と私が聞いた時並の返答の早さだ。
待ちに待ったかたつむり
「今日は珍しいひやむぎさんが見れたなぁ」などと、不機嫌なひやむぎさんを前に悠長なことを考えていたら、温め直されたエスカルゴのオーブン焼きとプチフォッカが運ばれてきた。
二人で半分こして食べたが、やはり温め直されたエスカルゴのオーブン焼きの味は少し変わってしまっていた。
食後のティラミス クラシコとトリフアイスクリームを食べ終わり、満腹によってもたらされる幸福感といつも行くサイゼへの感謝を胸に抱きながら私達はサイゼを後にしたのであった。