身近な誰かがいなくなっても、その時後悔しないために、いちコメディアンが毎日大切に思い続けていること
重々しい文章で始まってしまった。
そんな風に映らないことを願います。
自己紹介をさせてください。
私はごどう、という人間です。
どこにでもいる、平穏な生活を心から望む、1人の人間です。
職業はコメディアンです。
コメディアンは日本語で言うと「芸人」です。
舞台で面白おかしい表現を提供して、その報酬として、ありがたいことにお金をいただき、日々の生活を送っています。
自分で自分のことを紹介する際に、「芸人」という言葉は使いません。
それは、私が従事している芸事が海外発祥のものだからです。
みなさまは即興の喜劇、「インプロ(improvisation)」という芸事をご存知でしょうか?
即興。
ワクワクする言葉ですね。
さらちのように何もない状態から始まる運動。
私の愛する「インプロ」も何もない舞台上から始まります。
思い思いの服装をした出演者が舞台上に出てくる。
その顔には緊張感も悲壮感も一切ない。
なぜなら台本がないから。
台本があれば、その台本どおりの内容を上手に遂行しなければならない、という一種の気負いが生まれますが、ことインプロはそんな緊張感とは無縁です。
その後、お客様の顔色を伺いながら一つのお願いをする。
「何か好きな言葉はありますか?今から頂いたその言葉でお話を作りますよ!」
お客様から言葉がもらえればそれがスタートの合図。
その言葉からインスパイアを受け、出演者は脳をフル回転させ、一つのお話を即興で作り上げます。
台本と正解のない空間で子供のようにはしゃぎ、お互いの息遣いを感じながらお話を終わりへと運ぶ。これがインプロの全容です。
僕の考えるインプロはこんな構造です!
と、説明をしたのちにいつも考えることがあります。
まるっきり人生と同じじゃないか。
正解のない途方もない旅路を気の置ける仲間と呼吸を合わせて駆け抜けていく。
目の前には無数の選択肢があり、どの選択肢を選んだとしてもそのルートごとの終わりへと向かっていく。
僕はインプロを舞台で行うそのたびに、自分の人生観を再確認します。
そしてそれと同時に、もう一つの言葉がふと浮かんでくるのです。
この人と一緒に舞台に出るのはこれが最後の機会かもしれない
少し考えれば当然のことです。
無限に生きる生物はいないし、人生の終わりは突然、眼前にくる。
認識した時にはもう感謝の言葉も恨みつらみも言えません。
だからこそ、自分に言い聞かせています。
この人と会うのはこれで最後かもしれない。
であれば言葉を尽くす必要がある。
あなたのここが素敵だと思うよ。
あなたの言葉に救われたことがあるんだよ。
あなたと過ごした時間は3億円くらいの価値があると思うんだ。
あなたのトイレに置いてある漫画、チョイスが素晴らしいよね。
あなたの眠りに落ちる前の一言、毎回面白かったよ。
あなたの奏でるピアノが一番すき。
どんな類でもいい。
言葉を尽くし、毎日を終えたい。
舞台上なら尚更。今日できるパフォーマンスは全てやりきりたい。
そう、思ってなりません。
僕には愛する6人の仲間がいます。
即興コメディーチーム「シル」のメンバーです。
この文章で本当に言いたいことは彼らに対する感謝です。
シルというチームでは先述したインプロを7人で行なっています。
7人も人間が集まれば、当然のことなのですが、即興で息を合わせるのは本当に難しいです。
1人がこっちに行きたいと舵を切れば、もう1人は、いやいや、私はこっちがいいな、こっちに行こうや、という舵取りが複数人出てくることもしばしばですし、
このお話の基本構造がわからないから俺はしかるべきその時まで舞台袖でじっと見守るぜ、、というムーブをする人も出てきます。
けれど、何本かに一本、奇跡のように調和のとれたお話が出来上がることがあるんです。
それはまるで、清らかな川がやがて大海原に合流するかのよう。
どう考えてもこれが完成形だ、台本じゃないのこれ?と思えるような一本が出来上がってしまうことがあるんです。
いつだって、その瞬間を味わうために、この過酷にも思える芸事を続けています。
1人の人間では絶対になし得ない。
光るような尊さがこの瞬間には詰まっているのです。
だからこそ、彼らには、長生きしてほしいですし、毎回毎回、一緒に舞台に上がれることが当たり前だとは思いません。
八坂くん
いつもありがとう。
歴史に詳しい君のおかげで、時代物のインプロコントを作る時、安心感がすごいよ。特に戦国武将の家紋と各居城に詳しいのってなんでだろう?
古沢くん
いつまで経ってもお互いタバコがやめられないね。
でも、愛煙家の古沢くんだからこそ、喫煙に関わるインプロコントはいつもうまくいきやすいよね。
未来の喫煙事情に嫌気がさして過去のタバコに寛容な時代に戻ろうとする人、とかね。
どうか体は大事にね。
丸山くん
身長が高い丸山くん
新宿から埼京線/埼玉方面で一緒に帰ることが多い丸山くん
舞台上で話の転がり方を注意深く観察して、ここぞというときに出てきてくれる丸山くん
もっとたくさんのお話を一緒に作ろうね
野津くん
唯一の後輩として僕らに合流してくれた野津くん
「近鉄バッファローズではなく近鉄バファローズです」と、球団の発音に厳しい野津くん
いつもいつも野津くんが大声を上げて楽しそうにしているかどうかが、僕の一つの基準点になっているよ
野津くんのように繊細で優しい人が報われる、そんな世界を作るために、これからも一緒にお話作っていこう
シマノくん
シルの写真やフライヤーは全部この人が作ってくれているシマノくん
高校時代は美術部とバスケ部を兼部していたシマノくん
台本のない即興コントにこんなこと詰め込んでみたら面白いんじゃない?を一番に考えてくれるシマノくん
いつもありがとう
高畑くん
映像技術と音響/照明を一手に引き受けてくれている高畑くん
最近は仲間と立ち上げた劇場での映像撮影チームで大活躍の高畑くん
とても尊敬しているよ
即興コントにも独自の感性を多分に持ち込んでくれてありがとう
こんなメンバーと共に、即興の世界を自由に作れる。
ありがたいです。
捨てきれません。
このありがたみを忘れた瞬間、人は舞台に出る資格を失うのかもしれません。
どうかそうならないよう。
自分でその資格を捨てることがないよう。
言葉を尽くして今日を終え続けたいものです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
このメンバー7人で出演する舞台が近々にございます。
最後はその紹介で終えようと思います。
それでは、皆様も言葉の伝え忘れがありませぬよう。
全てを伝えられますよう。
ごどう