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ベリーブルーベリーパイ

重い雲が街全体の彩度を下げている

適当に話を合わせたりしたくなくて
できるだけ正直にいようと思った
でもどうすれば伝わるのか
真剣なほど
言葉は難しい

わたしから彩度の高い色が生まれるわけがない
曇り空の下で白む色
わかります
わかる気がします
と相づちをうちながら
でもわたしは幸せになることを望んでいて
言葉にしたくなくたって
どうやったって伝えたくて
世界ともっと深いところで
繋がりたいと思っていると
欲にまみれた部分を
どうしても言えなかった
相手はそんなことどうでもいいかもしれないが
欲に関わりたくない人の前で
共感することだっていけないことのような気がした

首筋のほくろも
えりの裏側のまだ鮮やかな水色も
きっとどこにも残らない
死ぬのはこわくない
でも痛いのはこわい
痛くて死ぬのはこわい
存在はすっかりなくなってゆく
テトラポットの上を
這って移動しながら
落ちたくないと怯える自分たちを
ふたりで笑えたのが嬉しかった


知らないこどもの
小さな爪が指す
苔の生えた岩を
すぐ手に取れるところに
いまも仕舞ってある
どうにもならなくなったとき
何者かわからなくなったとき
その引き出しをあければ
明々と思い出せる
色々なことがわかる
欲しがらなければ
あちらからおずおずと
差し出されるものを
準備せずとも受け取れるよ

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