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「慧」くんの本当の名前は?

むかーしむかし、サトシ君という中学生がおったそうな。ある日、彼はコンピュータに詳しい級友のA君にとある相談をしたという。その内容は、自分の名前が IME で正確に表示できないのをどうにかできないだろうか、というものだった。
彼の主張によれば、自分の名前を漢字で書くと「慧」なのだが、これは正確な表記ではないと言う。いわく、「慧」の真ん中の「ヨ」は突き抜けるのだ、つまり「彗」の下に「心」を書いた漢字である、と主張したそうな。

A君も試してみたが、たしかにそのような漢字は IME では表示できなかった。そこで、A君はインターネットで調べることにしたという。するとこのような記事を見つけた。

新字の「慧」は人名用漢字なので子供の名づけに使えるのですが、旧字の「慧」は子供の名づけに使えません。

突き抜けない「慧」は新字であり、突き抜ける「慧」は旧字だという。さらに、なんとこの旧字の方は名前に使えないとある。さらに読み進めてみる。

昭和53年11月、法務省民事局は全国の市区町村を対象に、子供の名づけに使える漢字として追加すべきものを調査しました。昭和54年1月25日に発足した民事行政審議会では、この調査をもとに、人名用漢字の追加が議論されました。この時、追加候補となった漢字の一つに、旧字の「慧」がありました。ただ、旧字の「慧」をそのまま人名用漢字に加えるわけにはいかない、と、民事行政審議会は考えました。というのも、この時点の常用漢字表案(昭和54年3月30日、国語審議会中間答申)には、「急」や「雪」が収録されていたからです。つまり、常用漢字表の「急」や「雪」に字体をそろえるなら、旧字の「慧」ではなく、新字の「慧」を人名用漢字に追加すべきだ、ということになったのです。この結論にもとづいて、昭和56年10月1日、新字の「慧」が人名用漢字に追加されました。

サトシ君の誕生日は昭和56年10月1日よりも後であったので、すでに人名用漢字は改定されており、旧字の「慧」は人名に使えないはずである。ということは、サトシ君は自分の名前を勘違いしているのだろうか?

しかし、先の記事にはこのような記述がある。

平成27年3月26日、大和高田市役所に、とある夫婦の長男の出生届が提出されました。この出生届には、旧字の「慧」が含まれていたのですが、市役所はこれを受理してしまい

平成27年5月25日、奈良地方法務局葛城支局は、旧字の「慧」をそのまま戸籍に載せるよう、回答しました。ただし、旧字の「慧」を子供の名づけに許したわけではなく、誤って出生届を受理してしまった以上、そのまま処理すべきである、という結論でした。

つまり、出生届を受け取った役所が、名前に使えない漢字であることを見落として受理してしまったケースが実際に存在するとのことであった。
つまり、サトシ君の名前については、以下のどちらかの状態であると考えられる。

  • 役所では新字で受け付けているが、彼、ないし彼の両親は旧字であると信じている

  • 役所が誤って旧字で受理してしまった

A君は調べてわかったことをサトシ君に伝えようと考えていたが、それ以降、サトシ君と話す機会に恵まれず、ついぞ伝えることが叶わぬまま中学校を卒業してしまった。

サトシ君の本当の名前がどちらであったのか、もはや知る者は誰もいないと言う…。


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