打撃メカニクスの観察点(前編)

お茶の間のみなさんこんにちは。みしマンでございます。前回のnoteにて、メカニクスについての自分の考え方を書かせていただきました。今回からは具体的に、自分がメカニクスを見ていく際の観察点について書いていこうと思います。今回は打撃編です。※2回に分けて書いていきます

●「構え」

さて、では実際に打者のフォームを見ていきましょう。メカニクスを説明する際、よく、”フェーズ”という言葉が使われます。これは(フォームの)段階、というような言葉です。打撃に関しては、個人的に

構え 足上げ 並進 踏み込み グリップ先行 ヘッド加速 インパクト フォロースルー

のような要素に分けて考えています。すべての打者がこれらの工程を踏んでいるわけではないですし、順番通りに並んでいない打者もいます。画像や動画があったほうがいいと思うので、今回はマイク・トラウト選手(エンゼルス)と、ミゲル・カブレラ選手(タイガース)のフォームを、YOUTUBEのこの2つの動画を見つつ、画像も載せつつ見ていきたいと思います。

まずは「構え」について見ていきます。前脚を上げる前のフェーズです。

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両者とも、無駄な力みがない構えをしています。静画なので分からないですが、動画を見ると、少しバットや身体を揺らしながら構えています。静止しようとすると無意識に力みが生じてしまうので、構えている際はリラックスさせるためにも、少し身体やバットは動かした方がいいです。また、両肘はあまり伸ばしすぎず、適度に曲げておくのが良いと思います。そしてもうひとつ大事なのが、両側の肩甲骨周りの筋肉をリラックスさせておくこと。たとえば、脇をグッと締めて構えると、肩甲骨がうまく動かなくなります。なお、トラウト選手は背筋を伸ばし気味で、カブレラ選手は少し捕手側に上体を前傾気味です(「足上げ」の際でも、トラウト選手の方が少し背筋が伸び気味です)。これについても後述しますが、たまたまではなく、その方がいいからだというのが自分の見方です。

下半身にも目を向けましょう。まず両膝はあまり曲げすぎないことと、足を開きすぎないこと。そうしてしまうと、重心が低くなりすぎてしまい、体重移動がスムーズに起きにくくなります。

以上が、「構え」に関して僕が見ている点です。「構え」は次のフェーズである「足上げ」「並進」に繋がっていく準備段階なので、スムーズに次のフェーズへ繋げることができるなら、どう構えても問題ないと思います。ただし、うまく繋げられないなら、見直す必要はあるでしょう。

●「足上げ」

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続いて、「足上げ」についてです。「足上げ」と書きましたが、上げない場合も存在します。例えば、大谷翔平選手(エンゼルス)は前脚の踵を浮かすだけの、いわゆるノーステップ打法ですが、問題なく打てていますし、MLBの打者はあまり足を上げないタイプの打者も多いです。なので「足上げ」ではなく「体重の後脚への移動」とした方が合っているかもしれません。

気を付けたいのは、骨盤を捻り、前脚を捕手側へ突き出すように上げてしまうことと、後脚に完全に体重が乗り切ってしまうことです。前者は、骨盤の回転力が強くなってしまうことで、前に体重が乗りにくくなる恐れがあります。いわゆる”捻り依存”も、骨盤から捻って足を上げるところにデメリットがあります。後者は、体重が後ろに乗りすぎることで、前にスムーズに動きにくくなります。前脚を上げる理由は、前脚が接地する際に体重をしっかり乗せるため、体重をいったん、後脚の股関節に乗せる ことだと思います。これが、後脚の足の裏に完全に体重が乗ってしまうなら過剰です。前脚の上げ方としましては、前脚の膝を少し捕手側へ向け、足の裏を投手に少し見せるように、前脚の股関節を少し捻りながら上げるのが良いかなと思います。

加えて幾つか、「足上げ」の際に注意したいことがあります。まず、タイミングをとるために足を上げるのではないということです。かつての野球理論で、投手の足の上げ下げと、打者の足の上げ下げのタイミングを同調させることでタイミングをとる というのがトレンドになったことがありましたが、これだと、投手が意図すれば、タイミングを外しやすくなります。自分の間合いでいかに球を捉えるか、ということに集中し、そのために足を上げるようにした方がいいと思います。

そして、バットのヘッドを投手側に倒しすぎないようにすること。投手側に倒すと反動がついてスイングスピードは上がりますが、反動が付きすぎて、腕がバットに持っていかれたり、スイングプレーンが暴れてしまいやすくなったりして再現度が落ちます。逆に、ヘッドを捕手側に倒すという打ち方も割と見かけますが、これが合うかどうかは個人差だと思います。良いとも悪いとも言えないところです。

●「並進」

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「並進」は、後脚の股関節に乗せた体重を前脚の股関節へ運んでいくフェーズです。この体重移動によって、溜められるエネルギーの大きさが変わってきますし、前脚で踏み込んでから、スイングがスムーズに行われるかどうか変わってきます。例えば、電車に乗っていて、急ブレーキがかかると、足で踏ん張っていても、乗客の上半身は自然と前につんのめりますが、電車⇒選手の下半身 乗客の足⇒選手の上半身 乗客の上半身⇒バット(のグリップ) みたいなものでしょうか。GIFはトラウト選手のスイング動作ですが、「並進」は、彼が左足を上げてから下ろすまでの動作です。

並進はとても重要なフェーズです。下半身の体重移動と、”トップ”の形成が行われるからです。下半身の体重移動が、後脚股関節から前脚股関節へとスムーズに行われないと、上体と腕だけの技術で打たなければいけなくなり、腕に過剰な力がかかって柔軟性が失われやすいですし、いわゆる”手打ち”になるリスクもあります。後脚に体重が乗りすぎたままになると、腰を回す途中でボールを捉えるような、かなり技術が要求される割に打球にさほどエネルギーが伝えられない打ち方になってしまいやすいです。20年ほど前までは後脚に体重を乗せて回転する”軸足回転打法”がトレンドでしたが、現在は少し風潮が変わってきています。

トップとは、前脚を踏み込んだ際のバットの形のことで、この場所が上手く決まらないと、スムーズに振り出すことが出来ません。結果を何年も残し続けている打者のトップのグリップ位置は、両肩と同じぐらいの高さで、捕手側の耳の少し後ろに来るような位置です。この時もバットのヘッドが投手側に傾きすぎないように注意。坂本勇人選手(巨人)の例を載せます。なお、この際、踏み込んだ足の位置と、グリップとがある程度、離れている方が良いです。この距離のことを”割れ”と言ったりもします。近すぎても遠すぎても、今後の動作に悪影響を及ぼします。

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並進の際に見ているのは、腰が投手側へまっすぐ動いているかどうか、ステップ幅が適切かどうか、トップの位置にスムーズにバットを運べているかどうか、などです。

例えば、骨盤を捻りすぎるほど捻って、足を捕手側へ突き出してから打とうとすると、足を下ろした際、腰が背中側へ動いてしまい、いわゆる”腰の引けた打撃”になるリスクがあります。骨盤を捻りすぎていなくても、内角を打とうとするあまり、腰が引けてしまう打者も少なからず見受けられます。腰が引けてしまうと、体重が前に伝わりきらないだけでなく、外角を打つ際に力が伝わりきらなくなり、当てるだけで精一杯になったり、外に逃げる変化球にバットが回りやすくなったりします。踵に体重が乗りすぎてしまう、いわゆる”踵体重”とよばれる悪癖も、腰が引けることが原因のひとつです。腰がまっすぐ投手側へ動いていれば、腰が引けないという点はクリアできます。

ステップ幅が広すぎると、体重が前に乗り切らないですし、踏み込んでから先のフェーズに影響が出て、後のフェーズでうまくフォローしないと、腕の力に頼ったスイングになりやすいのではと思います。逆に、狭すぎると、踏み込んでから上体が前に出やすくなってしまいます。どちらにしても良くないのですが、理由は後述します。なお、内股にまでしなくても、内股気味にすることで、後脚の股関節から前脚の股関節へ、体重が移動しやすくなります

理想的なトップの位置があるなら、最初からそこにグリップを構えていればいいじゃないかと考える方もいらっしゃると思いますが、最初からグリップ位置を静止させてしまうと、その場所に留めようとする際に筋肉が緊張してしまい、踏み込んでからスムーズにグリップを動かせなくなります。打撃はコンマ何秒の世界なので、ほんの少しの遅れが命取りです。なので踏み込みの瞬間まで、少しグリップ位置を動かし、流れの中で自然と、踏込みの瞬間にグリップが理想的な位置に収まるようにすることが大切です。例えばバリー・ボンズ元選手(ジャイアンツ)のように、グリップを一度下げて(ドロッピング・ハンド)から引き上げて(ヒッチ)、元の位置に戻すような動きをとる場合もあります。

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トップを作る際、腕でトップの位置に持ってこようとするのではなく、肩甲骨を動かしてトップを作る方が良いと思います。腕で毎回、同じ位置にグリップを持っていくのは再現性に問題が起きやすいですし、余計な力も入ってしまいます。なお、踏込みの際に”割れ”を作ろうとして、敢えてグリップを後ろに運ぼうとしすぎるのも、再現性が落ちたり(目に見えない部分へと毎回同じように運ぶのは難しい)、後ろに引きすぎてグリップを前に運ぶのが遅れたりします。逆に”割れ”ができなさすぎると、エネルギーを蓄えきれていないのに打つことになり、その後の動作に過剰な力が加わって悪影響が出ます。なお、上体の向いている向きも、「構え」から「踏込み」までは大きく変えない方が良いでしょう。骨盤や腰を回しすぎることによって、体重が前に移動しにくくなったり、目線がブレてしまうことを防げます。

●「踏込み」

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トラウト選手、カブレラ選手の「踏込み」の瞬間です。前項で触れたような位置にトップがあるのが、なんとなく分かるのではと思います。踏み込んだ際、前脚の股関節に体重が移動していると、踏み込んだ足に体重が乗ってきます。踏込みそのものに、あまり良い悪いは感じませんが、これ以前がスイング前半、これ以降がスイング後半となる、分岐点となるようなフェーズと思います。

ここまで”軸足”という言葉を使わなかったのは、前脚に体重が乗ることで、軸足が後脚から前脚に移動するからです。軸足体重というと、後脚に体重を乗せたまま回転する打法をイメージされるかもしれませんが前脚に軸足が移動しているので、前脚に体重が乗っていても、軸足体重であるのは同じです。踏み込んで、軸足が前脚にチェンジしてから本格的にスイングを始めていくと、始動を遅くできますし、見極めも遅らせることができます

なお、後脚体重がなぜ良くないかというと、軸中心が後ろにあると、体重が前に乗っていかないので、スイングするには、腰を回すか、腕を振って勢いをつけるか、どちらかになります。強く振ろうとして、腰を早く回せば目線はブレやすくなり、腕を強く振ろうとすれば、バットの重みに振り回されやすくなります。その結果、コンタクト力(りょく)が鈍ったり、遠心力で振り回されてバットが止めきれなくなったり、スイング軌道が制御しきれなくなりやすいです。場合によっては、踏み込む前から腕に勢いがついて、スイングが始まってしまっている場合もあります。

なぜ例として、トラウト選手とカブレラ選手を選んだかと言いますと、この踏込みの意味が変わってきます。トラウト選手は、踏み込んでから、後脚の膝を投手側へ向けるように後脚の股関節を捻る(内旋させる)ことで、骨盤を回していきます。この後脚股関節の内旋は、上体を前傾させたまま行うと、腰が引けやすくなるように思います。カブレラ選手は、踏み込んだ脚の膝を伸ばしていくことで、骨盤を押し戻し、骨盤を回します。こちらは、上体を前傾させたまま行なっても、腰は引けにくいです。トラウト選手が背筋を伸ばし気味なのに対し、カブレラ選手は最初から前傾気味で構えているのも、その辺に理由があると思います。なのでカブレラ選手の方が、なお、踏み込んでから先は、両者とも捕手側に前傾します(後述します)。トラウト選手型は、踏み込んでから前脚を地面に食い込ませて踏ん張るのが重要で、カブレラ選手型は、踏込みそのものが重要といえるでしょう。

なお、日本人選手は、トラウト選手の打ち方で打っている打者が多いのですが、山川穂高選手(西武)のようにカブレラ選手のような打ち方で打っているように見える打者もいます。骨盤の付き方によって、どちらが合っているか判別できるかもしれませんが、とりあえず両方試してみて、はまったほうで打ってみるのがベターかもしれません。

●野球とゴルフのスイングの違い

突然、何を言い出すのかという話ですが、長くなりそうなので、打撃メカニクスの続きは次回に続きます。次回は打撃メカニクスの後半、いよいよスイングが始まるフェーズです。最悪、前半が良くなくても、後半で取り返すことは可能ですが、前半が良ければ後半も無理がない自然なスイングになりやすく、前半が悪ければ、後半に悪影響は出ます。

途中で終わるのは忍びないので、次項の冒頭に言おうと思っていた話をします。野球の打撃と、ゴルフとは似ているという話があります。しかし、決定的に違うのは、ゴルフはスイングを途中でキャンセルする必要がないということです。野球は、打とうとしていても、完全にボールになっていく変化球なら空振りしてしまうので、スイングキャンセルする必要があります。そのため、野球は出来る限りギリギリまで、スイングをキャンセルできるようなメカニクスを意識する必要があります。踏み込んでからのフェーズの良し悪しは、そこがベースになっています。なお、これまで触れてきた中で言いますと、踏込み前に腕が強く振られているようなフォームは、スイングキャンセルには向いておらず、少し脆いフォームだと思っています。

次回は「グリップ先行」「ヘッド加速」「インパクト」「フォロースルー」のようなフェーズごとに、観察点について触れていく予定です。それでは打撃メカニクス観察点(前半)についてのnoteはこれで終わりになります。最後までご視聴ありがとうございました。おつかれさま~!とか、後半もまた読みたい~!とか思ってくれたら、高評価、よろしくお願いします。それでは、ばいば~い。




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