俳句とからだ 189 表語文字と表音文字

連載 俳句と“からだ” 189

三島広志(愛知県)

表語文字と表音文字
 
 先月号に諸葛菜のことを書き、同時にたくさんの植物名を上げた。諸葛菜以外の植物名はカタカナで表記した。それには理由がある。NHK放送文化研究所のホームページ「放送現場の疑問・視聴者の疑問」に次のように書かれている。
 
Q 動物や植物の名を、カタカナ ひらがな 漢字と色々書いていますが、その基準はどうなっているのでしょうか。
 
A 動物や植物(含む野菜)を表す漢字が常用漢字表にあれば漢字。なければひらがなで書きます。学術的な場合は、カタカナで書きます。
 
ここに書かれているように学術的名称にはカタカナ表記が一般化している。とはいえ、法律で定められたわけでもないので、必ずカタカナで書かなくてはならないというわけでもない。カタカナ、漢字、ひらがなの使い分けは出版社や編集方針にもよるらしい。それならば諸葛菜と漢字で書いてもよいはずだ。むしろ文学の世界なら古くからのイメージを持つ漢字は表現を豊かにするだろう。
 
 かげろふと字にかくやうにかげろへる
富安風生
 
学術的に植物名はカタカナ表記でという決まりであったとしても、カタカナではその名の由来が伝わらないため漢字で書きたいこともある。諸葛孔明に由来する諸葛菜もショカツサイではその背景が伝わらない。試みに先月書いた植物名をカタカナと漢字で表記してみよう。ナガミヒナゲシ(長実雛罌粟)、オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)、スミレ(菫)、セイヨウタンポポ(西洋蒲公英)、マツバウンラン(松葉海蘭)となる。漢字で表記するとカタカナと異なり意味が明瞭になる。カタカナは表音文字なので一字では音声を表すだけだ。それに対して漢字は表語文字(表音文字と表意文字を兼ねる)だから一字で意味と音声を示すことが可能となる。表意文字は一字でイメージを呼び起こす。ナガミヒナゲシは長実雛罌粟と表記することで長い実を付ける雛のように可愛い罌粟の花であると理解できる。
 
 文字には表音文字(phonogram)と表意文字(ideogram)があることは知られている。我が国の文字は中国の漢字を輸入したものだが、それを簡略化して片仮名が作られ、崩して平仮名が発生した。現代の日本語はこれら三つの表記に加えて表音文字であるアルファベットを混在させている。漢字は表意文字とされるが正しくは表音文字でもあり、その両者を併せ持つ表記を表語文字(logogram)と呼ぶ。日本語はこれらの表記を使い分けることで豊かな表現が可能となっている。
 
 皹といふいたさうな言葉かな
富安風生