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介錯なしの夏休み

男にとっての呪いは、"初めての女"という存在だと思う。

どうしようもない自分を、受け入れ、愛してくれた、そんな彼女は "もう好きにはなれない" と申し訳なさそうに告げた。追い討ちをかけるように、最後は情で付き合っていたのだと。

憤慨しても間違ってはいないのかもしれない。大事な尊厳が傷つけられた。自分が対等に愛し合える存在だと思っていた相手は、自分をみくびり、下に見て、情けをかけたのだ。

その情けは、彼女の弱さだ。
弱さを優しさと捉え、恋人を上の立場から優しく見下していたのだ。しかしそれを本人に伝えたんだ。それは中々勇気がいることで強い優しさだと思う。この女は弱さも持ち合わせているが、やはり根本的に強くていい女だと思った。

今まで付き合った女はいた。しかし、初めての女だと思う。そう思わせるぐらい、これ以上ないぐらい深く受け入れたし、受け入れてくれた。人は、恋をすると、他人と一つになるために一生懸命になる。そしてそのために、自己を開示し、受け入れてもらい、そして相手を受け入れる行為を繰り返すのだ。

僕は君の全てを受け入れられていただろうか。
君から告げられる日は、正直会った瞬間から分かっていた。だからこそ、君といる時は楽しく、すごく充実しているということを最後にアピールしようと努力した。それは帰り際まで、一切の綻びを見せないように。
それぐらい君を受け入れ理解していた。
でもそれも勘違いの思い上がりだったのかもしれないな。

君は嫌いだと、そしてもう会いたくないと言わなかったし、その感情も見受けられなかった。そんなの介錯なしの切腹と同じだ。完全に拒否された方が呪いの効力は弱かったと思う。

今ではスクロールしなければ見つけられなくなったLINEのトーク画面を開いて、未だに連絡する口実を探してしまう。しかしそんなものは、君がとりに来ない、折り畳み傘の収納袋ぐらいしかなく、それが無くなれば、唯一繋がりを感じられるモノがなくなってしまう。それが実現すれば介錯と同等なのかもしれないがそれを望まない自分がいる。どうか、そのまま、取りに来ないで。




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