あの古作図案を刺しちゃった! 〜3 かわいいポイント
古作こぎん界で一番有名なのかもしれない、「ゆめみるこぎん館」所蔵の古作こぎん着物「西こぎん見頃J」。この図案のファンは少なくないと思いますが、私もその一人。「いつか刺したい!」との長年の思いをこのたび、やっと実現させました。
自分で立ち上げたバッグブランド「kosaku」では古作着物の図案を使っていて、毎回、元の刺し手のことをあれこれ考えるものですが、この図案は他と別格。いつも以上にあんなことこんなことを考えました。
それを記録しておこうというのが今回の連載です。誰のためにとか何に向けてという目的がない、自分語りです。
それでも読もうと思ってくださった方、ありがとうございます。
こぎんを知らない人にはちんぷんかんぷんなことを説明抜きに書くと思いますが、どうぞご容赦の上お付き合いくださいませ。
トリミングまとめ
前回は元の着物のどこをどうトリミングし、どこから刺し始めるかについて書きました。
まずはそのまとめ。
どこを切り取るかは、この着物に本の表紙で出会い、実物に対面し、「かわいい!」「わ、なんだこれ!」と心が動いた部分を、できる限り入れ込むようにしました。
もちろん本当は、全て揃っての魅力なのですが。
悩みに悩んだ結果はこの通り。
もどこがかわいい!
ここからは、実際に刺してみて改めて感じた、または刺して初めて気づいた「かわいいポイント」「すごいポイント」を書いていきます。
*以降の画像は、私が刺したものです。写真で元の着物の細部まで確認しきれなかった箇所は、私の勝手解釈による図案になっています。
まずは一番目につくであろう、もどこの連続。
結び花のみっちりくっついた連続、石畳、結び花の3目アキの連続がモザイクのようで、なんともかわいい!
今でこそ、雑貨を作る作家さんが多くなって、もどこをかわいく使った図案は普通になりましたが、古作着物ではあまり多くは見かけないデザインだと思います。
私もこぎん刺しを始めたばかりの頃、こういうもどこの連続をパッチワークのように組み合わせるデザインに何度か挑戦しましたが、意外に難しいんですよね。つい、いろいろ混ぜたくなってしまうんですが、もどこ同士のバランスが刺してみると予想と違ってたり、下手すると重〜くなったり、やけに古くさくなってしまったり。
シンプルでかわいい結び花に絞ったのもいいんでしょうね。
あの面積を結び花で埋めるのは、勇気がいったんじゃないかなあ。とは私の勝手な想像ですが。
なんで、こうした? 柘榴のような不思議図案
最後までまったく意味がわからなかったのはここです。
結び花が密集しすぎて、柘榴のような、蜂の巣のような、不思議な、ある意味キモかわいいとも言えるところ。
この菱形スペースを埋める方法はいくらでもあったと思います。もっと普通の方法が。
想像ですが、作者は着物の肩くらいから刺し始めて、前見頃を先に指した。前見頃の方が着物の図案としてはそれほど逸脱していないので、最初は、あくまでも一般的な図案にプラスアルファの遊びを加えてみよう、くらいで始まったのではないでしょうか。
で、前見頃が終わって、また肩から背中を上から下へと指していったとき、徐々に、「なんか物足りないな〜」「もっと遊べる?」「こんなことやっちゃおうかな〜」といった気持ちが沸き起こり、下に行くほど、どんどんどんどん、頭も針も自由に動くようになったのではないか、と。
先の画像部分が含まれる複雑怪奇ゾーンは、最後の最後に何でもかんでもやってみた部分なんじゃないかなあ、と。
そう考えると、こうなるのも自然なような気がしてきます。
実際に刺した私にとっては、ここ、とっても楽しい箇所でした。
お、ここは1目空けるんだ。
わ、ここはつなげるのね、よしよし。
えー、ここ急に3目空けるの!
…と、自分のデータベースにない動きを示されるので、わくわくしながら翻弄された感じです。
同じ山は一つとない!?
この柘榴コーナーの両脇にはさかさこぶ(左右で馬の轡の使い方がこれまた少し違うのですが)を中心にした山があります。
この山が、左右対称に配置されていながら、全然違うことをやっている!
てっぺんのもどこも違うし、てっぺん手前の辻褄合わせも違うことをやっています。
辻褄合わせのところはごちゃごちゃっとしてて、元の着物が本当にこの通りかは不確かなのですが、左右で変えているのは確か。
もっとスマートな辻褄合わせはあったと思いますが、間違っちゃったのとは違う、作者の意図というか意識を感じます。
摩訶不思議ゾーンは、こんな???部分だらけ。
でも、全体としてみると、こういうところこそがすごく魅力的なんですよね。
美しい菱形が並ぶ整然さがこぎん刺しの魅力の一つですが、こういうちょっとした揺らぎがあると、より人の心にグッとくるのかなあ、などと考えました。
かわいい&なんだこれポイント、まだ続きます