星と、月と。本当は花火
夕日に染められたぬるい風に、締めつけられたお腹。浅い呼吸が混じる。浴衣を着て、巻いた横の髪を揺して。ちょこんとベンチに座り、イヤフォンを耳にした。
もう駅のホームで、かれこれ30分以上は待っている。それなのになぜか、ホームの時計の針はどんどん進み、次の電車に乗らないといけない、とおもむろに立ち上がった。
何本も電車を見送りながら、
「ごめん!浴衣、着る時間なかった!」
「スマホの充電器持ってる!?」
そんな何でもないメッセージが次々に画面を光らせた。息がつまる。呼吸が浅いのは、帯のせいじゃない。...緊張のせいだ。
好きな人と見る花火は、どんなだろう?
back numberの高嶺の花子さんにも、わたがしにも聴き飽きて、そろそろRADWIMPSでも聴こうかと思う頃。錆びついた看板が並ぶ田舎の駅に、電車は止まった。
空、広い...。
そう感動したのもつかの間、改札口を前に足踏みをする。
やばい。やっぱり引き返したい...浴衣...恥ずかしすぎる。
そんなうつむき加減のわたしの表情を知ったか知らぬか、かわいいかわいいと褒めてくれる大きな手。改札口には、待っていてくれる人がちゃんといた。
手が触れて、でも繋がない。
そんな曖昧な田んぼのあぜ道を、ケラケラと笑いながら歩く。目の前には、大きな花火が。そろそろ良いかな、と缶ビールとチキンを片手に芝に座る。田んぼにすっぽりと身を隠されてしまった、ふたりの笑い声やひそひそ話し。
語彙力のないわたしの口からでてくる言葉は、やばいとかすごいとか。綺麗...とか。かと思えば隣の彼は、あれはメロンだとかクジャクだとか。花火を何かに例えるのに必死らしい。
ま、いっかと思える幸せもきっとあるのだなと、途切れ途切れの花火の合間に見上げた空。
「プラネタリウムみたい」
ぽつりぽつりと光る星を見て嬉しそうに笑うから、わたしたちは花火そっちのけで天体観測をはじめる。今日は月が赤いね、とか。だんだん登っていくね。なんて、なんでもない、なんでもない、瞬間の連続だった。
好きですと伝えた夜。星。月が綺麗ですね。
君と手を、繋いだ日。