あたたかい気持ちはすぐに。
「女の人のストレス発散法は、寝る食べる泣く、だよ。」
中学生のころ、顧問の先生が言っていたこの台詞がなぜだか今でも鮮明だ。
同級生が、人生経験豊富な二児の母である先生に失恋か何かの相談をしたときに返ってきた答えが、それだったように思う。
友達の隣で、「へぇ〜」とか、「ふぅーん」と言いながらぼんやりとやりとりを聞いていたわたしは、その後、食べ過ぎたり寝すぎるたびに都合良く「これはストレス発散のためだ!」と呟くようになった。
ちょっぴり罪悪感を感じるとき。何かのせいにすることは良くないと言われているけれど、ときには勝手に理由つけてあげると、そのざわざわしていた気持ちがおさまるときもある。まるっと線を描いて枠で括るように。ただのもやもやに、「なぜ」の首輪をつけてあげるだけで手縄が引きやすくなる。
今日もよく眠った。
雨の音で起き、長靴に透明の傘。外を歩き、どこか虚無感はいつまでも降り続く雨のようにどんよりと横たわっていた。
現実から目を背けるようにして眠った。
ようやく起きたときも、世界は一ミリも変わっていなかった。不安なことは不安なまま、進んでない作業も、もちろんそのまま。
雨の音がしなくなったと思うと、今度はスニーカーを履いて外に出る。
水溜りは、空を映しどこまでも透明で黒ずむコンクリートに彩りを広げていた。
晴れてる。
いつのまにか、晴れていた。降り続く雨は、きっとこのあとも降り続くだろうとわたしの思い込みだったと気づかされる。
風は流れ、雲の上はいつも青空で、太陽と月は巡る。
外に出て、はじめてましての人と出会う。
その繰り返しが、不安をやわらかくしてくれた。ひとりではむずかしくても、誰かにあたたかい火をおすそわけしてもらうこともできる。そうやって自分の火を絶やさずに、誰もが生きているのかもしれない。
目を背けなくても、大丈夫。
時間は流れ続けているよ。
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