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Journey to Karamea
ニュージーランド南島の西海岸北端にある小さな町、カラメア。
数年前から行ってみたいと思い始めて、やっと辿り着けた場所。
カラメアという場所は、知らない人の方が圧倒的に多いだろう。
私も友人が住んでいなければ、一生知ることはなかったかもしれない。実際そこに行くまで、カラメアがどんな場所なのか想像もできなかった。
私が今回行くことにした理由は2つ。
ひとつは、大自然。
私の友人がInstagramに載せていた、オパララという場所。
その写真を見た瞬間に、「絶対行く」と心に決めた。
もう一つは、友人の言葉。
彼女が日本に帰国するタイミングで、会って色々な話を聞いた。
その中で特に印象に残った2つのフレーズがあった。
「カラメアには、何もないけど、全てがある」
「カラメアには、何もないけど、何かがある」
この言葉を実際自分で、身をもって体感したくなった。
カラメアに辿り着くまで
カラメアは、遠い。
遠い遠いとは聞いていたけれど、本当に遠かった。
東京からオークランドまで直行便で飛び、そこから国内線に乗り継ぎネルソンという町へ。海と山に囲まれた自然豊かな小さな町だ。こじんまりとしていてとても居心地のよい雰囲気があった。現地は夏。午後9時頃まで明るくて、観光客も多くいるらしく、オープンエアーのカフェやレストラン・バーが賑わっていた。
ネルソンの中心部。蝉が鳴いていた。奥に見えるタワーは町のシンボルであるクライストチャーチ大聖堂。
ネルソンで一泊し翌朝、InterCityという長距離バスの発着所へ。バスに乗り込むのを待っているのは大きなリュックを背負ったバックパッカーらしき人たち。ここから乗るバスはネルソンからウエストポートという町を経由しグレイマウスという場所まで行く。私はウエストポートで降りてまた別のバスに乗り換える予定だ。
バスは走り出すと、ネルソンの海沿いの道を少し走り、山の方へと向かって行った。いくつかの場所でまた乗客を乗せながら進む。途中牧草地に牛がいるのが何度か見えた。でも羊はいない。ニュージーランドと言えば羊、そういうイメージがあるのに羊はちっとも見ることがなかった。
山道に入ったところで、運転手のおじさんが陽気な感じで話し始める。バス車内でのルールや各地の到着時刻の案内まではどこの国も同じかしらと思って聞いていた。その後、最近起こったネルソンでの山火事のこと、どれくらい被害があったのかということなどを話してくれた。それから車内にはWi-Fiがあるという説明をしてくれたのだが、これがとても個人的に好きだった。訳してみるとこんな感じ。
「いいニュースがあります。なんと、このバスにはWi-Fiがついています。よかったね!イエイ!みんなSNS大好きでしょ?Facebook、Twitter、Instagram... 若い人がみんなSNSをすることくらい、俺だって知ってるさ。これから走る山道の窓から見える美しい大自然は、きっとみんな写真に撮ってアップしたくなるよ!でもね、一つ注意すべき点がある。Wi-Fiってのは電話通信会社の電波が届くところでないと使えないんだ。そしてこのバスが行く山道はそのほとんどで電波が通じないエリアとなっております!そう、Wi-Fiを搭載していても、使えないの!残念だったね〜。せっかく写真映えする大自然の中を通って行くのにSNSにアップできないなんて。
でもね、最高に美しい大自然を残す方法を教えます。準備はいい?シートにまっすぐ座って〜頭を90度、右か左、窓のある方に向けるだけ!みんな自分の目で、目の前に広がる大自然をパノラマで見て!そして、“思い出”に残すんだよ!スマートフォンの画面ばっかり見てないでさ、ね!」
素敵なアナウンスだった。一部の乗客からは拍手が上がっていた。私も拍手した。それから運転手のおじさんは続けて、この道中で見ることのできるニュージーランド原産や特有の植物の話をしてくれた。一部の乗客はこのトークショーを大喜びで聞いていた。
途中カフェで休憩を取り、約4時間かけてウエストポートへ到着する。
ウエストポートはネルソンよりもさらに小さな町だが乗り換えだけで歩き回ることはできず。
ウエストポートでカラメアエクスプレスというバスに乗り換える。写真はカラメアエクスプレスの車窓から。
カラメアエクスプレスはウエストポートとカラメアを結ぶバスで、家族経営の小さな会社らしく、少し古めのマイクロバスがやって来た。発車予定時刻から15分過ぎていたけど、同じバスを待っていた2人のおじさんは何てことなく、いつも通りといった感じでバスに乗り込んだ。
乗り込むと、いろんな物が積んであるのが見えた。後部座席には大小さまざまなダンボール、またある座席には、毛布をかぶったガラス板が。なんだろうと思いながら運転手に乗車賃を渡して席に着く。隣に座ったおじさんと会話が始まる。
おじさんは私が目指すカラメアのRongoという宿の2軒先に住んでいて、私の友人のことも知っていた。ウエストポートには月に一度くらいの割合で買い出しに来るとかで、今日は搾りたてのフレッシュミルクを手に入れたんだ、と大きな保冷バッグから瓶に入った牛乳を見せてくれた。
バスは走り出してから、やたらいろんな場所に立ち寄った。その度に積んであるダンボールの箱を下ろしたり、また別の物を積んでいく。小さな病院に寄って薬の入った袋を受け取り、誰かの家で止まって届けたり。また地域新聞らしき束を商店の軒先や、道端に立っている誰かの家のポストの上に置いたり。あまりにもいろんな場所に寄るので、隣のおじさんに「いつもこんな感じ?」と聞くと、「ああ、そうだよ」と返事が。
座席に立てかけてあったガラスの板は、山道やガタガタとなる橋で割れないように慎重にそーっと運ばれて行き、途中立ち寄った増築中の宿で下ろされていた。
運転手が降りて宿の人と話している姿を座席から眺めながら、“果たしてどちらが本業なんだろう、まるで宅配便のトラックに便乗させてもらっているようだ” という気分になる。
バスは海沿いの道を走り、それから2つの山と野や川を越えた。
ネルソンからウエストポートまでの道のり同様、美しい大自然が車窓から見える。山道に入ると午前中に雨でも降ったのか、ジャングルのような森の木々が水々しく、太陽が反射しキラキラ光っていた。遠くには海が見えた。
私はランチを食べていないこともあって、早くカラメアに、そして友人の待つRongoに着きたかったけど、途中から時間のことはもうどうでもよくなって、この流れを楽しんでいた。
時間通りに来ないバス、乗っても寄り道だらけで全く着かない。ガラスを積んでいるからゆっくり運転。荷物を届けるついでの私たち...。
そんな風に思うとなんだかおかしくなってきた。
思えばこの行程すべてがカラメアに辿り着くために必要なプロセスなのかもしれない。
多くの人たちがあくせくと急ぎ足で歩き、忙しそうにしている東京から、徐々に、少しずつ、気持ちや身体が落ち着いていく。
“そんなに急ぐなよ、気楽に行こうぜ”ということなのだろう。
そしてついに、バスはカラメアのRongoに到着するのだった。