何もない Karamea
ついにカラメアに着いた。
ずっと来たかった、カラメアに。
必要な時間とプロセスを経て。
友人から「カラメアには何もない」とは聞いてはいたけれど、着いてみたら本当に何もなかった。
人はほとんどいないし、車もあまり通らない。車のあまり通らない道には、信号もストップサインもない。
(正確には幅の狭い橋を渡るための信号が一つだけあったらしいのだが、最近何者かによって盗まれたらしく一つもなくなったということを後になって聞いた)
スーパーマーケットは小さいのが一つだけ。
それに旅行者向けのインフォメーションセンターと、小さな宿、カフェがいくつかあった。
学校は小学校から高校まで一緒のものが一つ。それと交番、週に一度ドクターが来る診療所。郵便はスーパーマーケットの隣にある雑貨店で出せるようだ。
生活に必要なものが最低限ある、といった町。
カラメアの人口は570人。(カラメアエクスプレスで隣に座ったおじさんが教えてくれた)
何もないというよりは、むしろ「ある必要がない」のかもしれないと思った。
到着した夜、友人の早苗ちゃんの自宅で温かい歓迎のディナーをご馳走になって、20時前くらいにご主人のポールと娘のディーバちゃんが近くのエスチュアリー(三角江)まで夕陽を見に案内してくれた。
エスチュアリーに向かう途中に見えた夕陽。
「こんな美しい夕陽を毎日見れるなんて、とっても贅沢!」と言ったら、
ポールが「You can see this beautiful free sunset everyday!(こんな美しい夕陽が毎日無料だよ!)」と言って、みんなで笑った。
エスチュアリーには私たちだけ。
穏やかな水面と、目の前で夕陽が沈んでいくのを見つめながら歩いた。
一緒に散歩に来た犬のマックスは、枝を見つけては「投げて」とポールのところに持ってきておねだりする。
ディーバは砂浜にある海藻を、食べられるかなあ?と言いながら拾ってみたり、綺麗に形の残っている貝がらや枝や石を拾い集めていた。
歩きながらポールは、カラメアに移住した時のことや、自身が東京で新聞記者をしていた頃の話を私にしてくれた。
「東京で高い給料をもらっていい家に住んだり、服や靴、時計やたくさんのものを買うような生活はもういいと思ってね。自分が大切にしたいのは “Quantity of Life” じゃなくて “Quality of Life” なんだ。」
何もないカラメアにあるものが少しわかった瞬間だった。